先程述べたように、下まぶたのたるみの原因は、以下の3つに分けることができます。
- 皮膚や眼窩隔膜、靭帯のゆるみ
- 眼窩脂肪の前への突出
- 骨の萎縮
治療は、これらの原因に対しアプローチしていきます。
レーザー
レーザーは、①皮膚や眼窩隔膜、靭帯のゆるみに対するアプローチです。
当院で使用しているSP Dynamis PROは、肌を直接傷つけることなく中に熱を入れて組織をタイトニングする(収縮させる)ことによりたるみの改善を目指す、という特徴を有しています。
1
Smooth Liftin:粘膜面からの照射
まぶたの裏側の粘膜(結膜)面からの照射により、最深部から強力なリフトアップ効果を実現します。このレーザーの最大のストロングポイントになります。
本来、ホクロ除去など皮膚表面を削る効果があるErb:YAGレーザーですが、この機種は、波長を長くして粘膜面から照射することで、表面へダメージを与えずにエネルギーを最深部へ到達させます。
現存するレーザーでは、粘膜面からの照射が可能なのはこの機種のみです。
レーザーを当てることにより、以下の効果が見込めます。
- 最深部でのコラーゲンの再構築
- 眼窩隔膜など、まぶたの張りを維持している組織の引き締め
2
Frac 3:肌の再構築
短いパルス幅で高いピークパワーのNd:YAGレーザーを照射することで皮膚表面にダメージをほとんど与えずに表皮から真皮まで三次元的にエネルギーを入れ、肌を再構築して入れ替えます。
いわゆる「フラクショナルレーザー」と比べると、肌表面に傷をつけないことが大きな特徴になります。
3
Piano:タイトニング
非常に長い波長のNd:YAGレーザーを照射することで、全体的なタイトニング(引き締め)に使用します。
イメージとしては「じっくり、ゆっくり」の炭火焼のイメージでしょうか?
Frac3と併用することでコラーゲンのさらなる増生を狙うことができます。
4
Superficial:ピーリング
短いパルス幅のErb:YAGレーザーを使用することにより、皮膚表面を薄くピーリングすることで新しい肌へ導きます。
ヒアルロン酸注入
ヒアルロン酸はムコ多糖類の一種で、元々体の中の皮膚や靭帯、目の中の硝子体、関節内に存在する、ゲル状で粘調度や保水力が高い物質です。
医療で使用されるヒアルロン酸は、微生物から作られており、アレルギー反応も非常に起きづらく、また、架橋されていることで生体内に長くとどまるようになっています。
つまり、「体にとっては異物だけど、一定の期間体の中に安全にとどまる」物質です。
アメリカでFDAの認可を受け2004年から下まぶたの治療に使用されており、ヒアルロン酸注入とは、このヒアルロン酸を細い針でまぶたに注入し、下まぶたのたるみの原因3つの中の「③骨の萎縮」を改善させます。
ヒアルロン酸注入のメリットは、以下になります。
デメリットとしては副作用が出る場合があり、以下になります。
- 内出血(10%)
- むくみ(15%)
- 肌の色調の変化(7%)
- 見栄えの異常(11%)
血管閉塞、皮膚の壊死、失明など重篤なものもありますが、非常にまれであるといえます。*1
また、たるみの原因①皮膚や眼窩隔膜、靭帯のゆるみ ②眼窩脂肪の前への突出は改善しません。
ヒアルロン酸の種類にもよりますが、基本的には徐々に体に吸収されるため、効果は永続的なものではありません。
「へこんでいる部分をまずはお手軽に治してみたい」という方に向いている施術だと思います。
*1 mustak et al. filling the periorbital hollows with hyaluronic acid gel: long-term review of outcomes and complications..j cosmet dermatol. aug;17(4),2018.611-616.
脂肪注入
脂肪注入とは、おなかもしくは股の付け根(鼡径部)に小さな穴を開け、カニューレという細い棒を入れて脂肪を吸い出し、採取した脂肪をまぶたに注入するやり方です。
ヒアルロン酸注入と同様、まぶたのボリュームを足すことで「③骨の萎縮」を改善させることができます。
足りない部分を増やすという意味ではヒアルロン酸注入と同じですが、いくつかの違いがあります。
ヒアルロン酸のデメリットは、以下になります。
- 徐々に体に吸収されるため、効果は最大12~24カ月くらい
- 皮膚が薄い場所に注入した際に「チンダル現象」という、独特の色味が出る。
これに対し、脂肪注入は、以下の点でヒアルロン酸と相違があります。
- 半分くらいは定着する(術後7カ月で49%が生着する。*2)
- チンダル現象が起きない(色味の不自然さがない)
つまり、脂肪注入は、ヒアルロン酸のデメリットを解消した方法であると言えます。
しかし、脂肪注入にも以下のデメリット(合併症)が存在します。
脂肪塞栓(血管に脂肪がつまり、様々な症状を引き起こす)などもありますが、非常にまれであるといえます。*3
近年、様々な成長因子を添加することで生着率を上げるという方法も出てきていますが、硬結(入れた場所にしこりができる)などの合併症も報告されているため、当院では成長因子は添加せずに施術を行っています。
また、脂肪注入はヒアルロン酸注入と同様、たるみの原因である①皮膚や眼窩隔膜、靭帯のゆるみ ②眼窩脂肪の前への突出は改善しません。
当院では、脂肪注入は「手術を受ける方で、ほほ骨の凹み(骨の萎縮)が強い方」に、手術の際同時に行っており、脂肪を特殊な機器で精製し、さらにフィルターにかけることでまぶたが美しい形になるよう工夫しています。
*2 glasgold m, glasgold r, lam s. autologous fat grafting for midface rejuvenation. clin plast surg. 2015;42:115–121.
*3 a systemic review of autologous fat grafting survival rate and related severe complications.yu nzet al..chin med j (engl). 2015 may 5;128(9):1245-51.
手術
施術の効果を最大限に出したい場合は、手術を選択します。
手術の方法ですが、大きく分けると3つあります。
それは、脱脂、裏ハムラ、表ハムラです。
a.脱脂
文字通り「脂肪を取る」手術で、通常はまぶたの裏からまつげ付近の膨らんだ部分の脂肪を切除します。
脱脂のメリット |
脱脂のデメリット |
- 手術が短時間で終わる
- 術後の腫れが(ハムラ法より)少ない
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- たるんだ皮膚はそのままのため、術後に皮膚のたるみが出やすい
- 骨の萎縮部はそのままのため、凹みが残りたるみ(クマ)が残りやすい
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先程も述べた下まぶたのたるみの原因3つが以下になります。
- 皮膚や眼窩隔膜、靭帯のゆるみ
- 眼窩脂肪の前への突出
- 骨の萎縮
つまり、脱脂をすることで下まぶたのたるみの原因の中の②眼窩脂肪の前への突出を改善させることができますが、①皮膚や眼窩隔膜、靭帯のゆるみ③骨の萎縮を改善させることはできません。
③そのため、骨の萎縮を改善させる目的で、同時に脂肪注入を行う場合があります。
以上より、脱脂は「20~30代前半の皮膚のたるみが少ない方」におすすめしています。
b.下眼瞼形成術 通称「ハムラ法」
眼窩隔膜内の脂肪を、骨の萎縮でへこんだ部分に移動させる術式です。
ハムラ法は、脱脂とは違いまぶたのたるみの原因「③骨の萎縮」を改善させることができるため、たるみ(クマ)が改善しやすい術式です。
そして、ハムラ法は、皮膚を切開するか否かで2つに分けることができます。
b-ⅰ.下眼瞼形成術(経結膜) 通称「裏ハムラ」:まぶたの裏(結膜)からアプローチし、皮膚を切開しない
b-ⅱ下眼瞼形成術(経皮). 通称「表ハムラ」:まぶたの表(皮膚)からアプローチし、皮膚を切開する
これらには、それぞれメリットとデメリットが存在します。
ハムラ法:術式による比較
経結膜(裏ハムラ)
利点 |
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欠点 |
- 皮膚のたるみは取れない
- きめ細かな手術をしづらく、たるみ(クマ)が残る可能性
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経皮(表ハムラ)
利点 |
- 皮膚のたるみを取れる
- きめ細かな手術をしやすく、より良い結果が出やすい
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欠点 |
- 皮膚を切開する(傷あとが残る可能性)
- 術後の腫れが多め
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b-ⅰ.下眼瞼形成術(経結膜) 通称「裏ハムラ」
下眼瞼形成術(経結膜) 通称「裏ハムラ」は、皮膚を切らないため術後の腫れが少なめであるというメリットはあるものの、皮膚を切開しないため、皮膚のたるみが取りづらい術式です。
また、まぶたの裏から行うため手術の際に視野が非常にとりづらく、以下の特徴もあります。
- きめ細かな手術をしづらく、たるみが残る可能性がある。
- 手術の際に視野をしっかり取るため非常に強い力で皮膚を引っ張らざるを得ず、皮膚にかなりの負担をかける。
つまり、先ほども述べた下まぶたのたるみの原因は以下の3つですが、この中の①皮膚のゆるみを改善させることはできません(追加で皮膚を取ることがありますが、改善効果は多くはありません)。
- 皮膚や眼窩隔膜、靭帯のゆるみ
- 眼窩脂肪の前への突出
- 骨の萎縮
以上より、裏ハムラは、「30代~40代のたるみが少ない方で、どうしても皮膚に傷を作りたくない、ダウンタイムを少しでも短くしたい」と考えている方にお勧めしています。
なお、③骨の萎縮が非常に強く脂肪の移動のみでは改善が不十分な場合、脂肪注入を同時に行うことはできます。
b-ⅱ.下眼瞼形成術(経皮) 通称「表ハムラ」
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下眼瞼形成術(経皮) 通称「表ハムラ」は、皮膚を切開するため腫れが多めに出ることがありますが、手術の際に視野を取りやすく、きめ細かな手術ができるというメリットがあります。
つまり、下まぶたのたるみの原因3つ全てを高いレベルで改善させられることが可能です。
- 皮膚や眼窩隔膜、靭帯のゆるみ
- 眼窩脂肪の前への突出
- 骨の萎縮
また、きれいに縫えば傷あとが目立つことも多くはありません。
そして③骨の萎縮がつよくほほ骨の凹みが強い場合は、もちろん同時に脂肪を注入することも出来ます。
以上より、表ハムラは、「仕上がりをとにかくきれいにしたい方」にお勧めしています
経結膜(裏ハムラ)
利点 |
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欠点 |
- 皮膚のたるみは取れない
- きめ細かな手術をしづらく、たるみ(クマ)が残る可能性
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経皮(表ハムラ)
利点 |
- 皮膚のたるみを取れる
- きめ細かな手術をしやすく、より良い結果が出やすい
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欠点 |
- 皮膚を切開する(傷あとが残る可能性)
- 術後の腫れが多め
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