先天性鼻涙管閉塞症
先天性鼻涙管閉塞症
涙は眉毛の後ろで産生され鼻腔へ排泄されますが、その間にある涙が通過する道のりを「涙道(るいどう)」といいます。涙道は、場所によりそれぞれ名前が付いています。
この中でも、鼻腔と接している「鼻涙管(びるいかん)」が閉塞している状態を「鼻涙管閉塞症」といいます。
通常は産まれた時に開くHasner弁が開かず、鼻涙管が閉塞して涙があふれている状態を「先天性鼻涙管閉塞症」といいます。
先天性鼻涙管閉塞症のお子さん、赤ちゃんは、以下のような症状があります。
産まれたばかりの赤ちゃんは約半数が逆さまつげを持っています。
逆さまつげの場合、まつ毛が眼球に当たることで刺激になり涙が出ます。
眼科に置いてある細隙灯顕微鏡(さいげきとうけんびきょう)で確認します。
赤ちゃんの場合は、手持ちの細隙灯顕微鏡で目もとを拡大して診察し、逆さまつげがあるかどうか確認します。
逆さまつげがないのに涙や目やにが出ている場合は先天性鼻涙管閉塞症の可能性が非常に高くなります。
また、後述する検査を行う場合もあります。
先天性鼻涙管閉塞症の割合ですが、約9人に1人というデータが出ています。(1)
また、帝王切開や未熟児の場合に先天性鼻涙管閉塞症リスクが高まるというデータもあります。(2)(3)
先天性鼻涙管閉塞症のお子さんの場合、流涙や目やにの症状に対して産科の先生から抗生剤の目薬が処方され様子を見ているケースが多いと思います。
後述しますが、先天性鼻涙管閉塞症はほとんどのケースで自然治癒するため、このケースでも問題ないことが多いです。
ただ、涙道の一部「鼻涙管」が感染を起こして「涙嚢炎」になる場合もありますし、そもそも「先天性鼻涙管閉塞症」ではなくまつ毛の病気「睫毛内反症」である可能性もあります。
抗生剤の目薬のチョイスも含めて生後6か月以内には一度専門医師を受診することをお勧めします。
赤ちゃんに対する診察、検査方法は限られていますが、いくつかあります。
目もとの検査は、眼科での細隙灯顕微鏡検査は必須です。
先天奇形で涙道の入り口「涙点」がないこともあります。
これらは細隙灯顕微鏡でないと分かりません。
目の表面に色素をつけて、5分後に色素がどの程度残っているかをみる検査です。
涙道閉塞がない場合は涙の流れによって5分後に色素が無くなり、涙道閉塞がある場合は涙の流れがないために5分経過しても色素が表面に残っています。
この検査のメリットは、赤ちゃんへの体の負担が全くないということです。
涙道に生理食塩水を通す検査です。鼻涙管閉塞かどうか確認する最も確実な検査ですが、体を押さえつける必要があります。
赤ちゃんにとって診察が「恐怖体験」と認識されるのを避けるため、当院ではおこなっておりません。
先天性鼻涙管閉塞に対する治療ですが、大きく分けると3つ存在します。
針金を涙道に入れて盲目的にHasner弁を突き破るという方法です。成功率は97%と高く悪くない治療法だとは思いますが、局所麻酔の場合は子供を押さえつけて行います。
また、ブジーは手探りで行うため、目隠しして治療するのと同じです。
そのため、確率は低いものの涙道を傷つけてしまうことがあります。このような場合は一度失敗すると最終的な成功率は極端に低下し50%程度となります。
涙道の治療専用である「涙道内視鏡」を使用し、閉塞部位を目視で確認しながら突き破る方法です。
最も確実な方法で、当院にも設備はあります。
そもそも、ほとんどの先天性鼻涙管閉塞は、自然に治ります。
閉塞部位は、生後1年で約90%、一年半で95%が自然に開きます。
そのため当院では、基本的な治療方針として積極的な様子見、経過観察ということになります。
先天性鼻涙管閉塞症のお子さんに対し目頭付近のマッサージを薦められる場合もあります。
有効なケースもあるかもしれません。しかし、一部の先天奇形があった場合にマッサージで涙嚢が破裂する可能性もありますので、私はお勧めしておりません。
追記:2023年の涙道学会において、大規模な試験を行ったところ「生後3~5か月の乳児に対して涙嚢マッサージを(Crigler法:1セット10回、1日2セット)を行ったところ、治癒率が向上した」という結果が報告されました。先天奇形があった場合マッサージが悪い結果をもたらす可能性は否定できませんが、生後3~5か月の乳児に対してはマッサージを行った方が良い場合もあるかもしれません。逆に、生後6カ月以降の乳児に対しては、マッサージをしても治癒率は向上しなかったと報告されていますので、マッサージはお勧めいたしません。
自然に開くまでの治療法ですが、涙嚢の感染を防ぐため、抗生剤を点眼します。点眼は、耐性菌ができないよう目やにがひどい時のみにしてください。
当院では、親御さんの通院の負担も考慮し、自然に開くまでは2~3カ月ごとの受診をお勧めしております。
01) Incidence and clinical characteristics of congenital nasolacrimal duct obstruction. Saraniya Sathiamoorthi. Br J Ophthalmol 2019 Apr;103(4):527-529.
02) Association between congenital nasolacrimal duct obstruction and mode of delivery at birth Mehdi Tavakoli. J AAPOS . 2018 Oct;22(5):381-385.
03) Congenital nasolacrimal duct obstruction in premature children Silvia Helena Tavares Lorena. J Pediatr Ophthalmol Strabismus 2013 Jul-Aug;50(4):239-44.