どんな病気・涙道閉塞症の特徴とは?
涙は眉毛の後ろにある「涙腺(るいせん)」で産生され眼球表面にいきわたります。眼球表面にいきわたった後はまぶたの縁に溜まり、その後鼻腔へ排泄されます。このまぶたの縁に溜まった涙を鼻腔へ流す細い道を「涙道(るいどう)」といいます。
涙道閉塞症
涙は眉毛の後ろにある「涙腺(るいせん)」で産生され眼球表面にいきわたります。眼球表面にいきわたった後はまぶたの縁に溜まり、その後鼻腔へ排泄されます。このまぶたの縁に溜まった涙を鼻腔へ流す細い道を「涙道(るいどう)」といいます。
涙が通る道のりのどこかで異常が起きると、涙があふれ出る「流涙(りゅうるい)」症状が起こります。
そして、流涙症状が起きる原因の一つに「涙道閉塞」があります。涙道閉塞とは名前の通り涙道がつまった状態です。涙道がつまり行き場を失った涙が逆流し、まぶたからこぼれ出ます。
流涙により以下のような自覚症状が出てきます。
ドライアイの症状「眼が乾く」と、涙道閉塞の症状「流涙(りゅうるい)」は逆の症状のように感じられますが、実はドライアイなのに流涙を自覚する方は意外と多いです。
それは、ドライアイにより風や寒冷の刺激(寒い冬の朝に自転車に乗った時を想像して下さい)を受けやすくなった眼球を守ろうとして反射的に涙が出るためです。
そのため、「涙があふれてしまうので、自分は涙道がつまっているのではないか」と考え、眼科を受診された患者様が実はドライアイであることが判明したりもします。
眼球の表面には半透明のティッシュのような膜があり、これを結膜といいます。そして、加齢とともに結膜が緩み、眼球とまぶたの間で結膜がたまるようになります。これを結膜弛緩症といい、流涙症状の原因になります。
そのためドライアイと同様に、「涙があふれてしまうので、自分は涙道がつまっているのではないか」と考え眼科を受診された患者様が実は結膜弛緩症であることが判明したりもします。
眼科に置いてある細隙灯顕微鏡(さいげきとうけんびきょう)でドライアイや結膜弛緩症の検査、そして涙道に生理食塩水を通して鼻腔まで届くかどうかの検査(通水(つうすい)テスト)を行い、流涙症状の原因になっている病気を見分けます。
涙道閉塞になる危険性は加齢とともに上昇していくということが分かっています。そして、危険性は40歳代から上昇し始め60歳代からさらに上昇することが分かっており、涙道閉塞の平均年齢が60歳であったというデータも出ています。1)
また、女性の方がなりやすいということも分かっています。
結膜炎など眼球の炎症や感染、緑内障の点眼、ドライアイなど様々な原因が指摘されていますが、最も多い理由は「原因不明」です。2)
原因不明が多い分閉塞症を予防することもできないので、流涙症があり涙道閉塞が見つかった場合の選択肢は「様子を見る」か「手術」になります。
涙が目からこぼれる(流涙)症状が出たら、まずは専門の医師の診察を受けた方が良いと思います。
なぜならば、以下のような病気や、理由が考えられるからです。
涙道が狭くなっているだけの場合でも流涙症状が出ることもあり、涙道を専門にしている医師でないと診断しづらい場合も多いです。
専門の医師への受診を強くお勧めいたします。
眼科の診察室にある細隙灯顕微鏡で以下の所見などを確認します。また、手術後の経過を診る際にも必須の検査です。
涙道に水を流し、鼻まで水が流れるかどうかの検査です。
涙道閉塞がない場合は鼻まで水がしっかりと流れますが、涙道閉塞がある場合は鼻まで水が流れません。
また、専門の医師であれば通水検査のみで閉塞している場所や程度を推測することもできますので、とても大事な検査になります。
涙道の中を内視鏡でしっかりと確認し、閉塞の有無を調べます。
外来でできますし、専門の医師の場合は数分で行うことも可能です。
また、検査の後にすぐ治療に移ることもできます。
通水検査と比べ、得られる情報は数十倍も多いため、気になる方は涙道内視鏡検査(けんさ)を受けることをお勧めします。
鼻の中を内視鏡でしっかりと調べる検査です。
流涙症状の原因が鼻の中の病気のこともありますので、涙道閉塞を治療する上で涙道内視鏡と鼻内視鏡は必須の検査になります。
ごくまれにですが、涙道閉塞の原因が腫瘍や鼻の中の病気のこともあります。
これらを疑う場合は、画像検査が必要になります。
涙道閉塞症は放置しておくと悪化し、最悪の場合は失明することもあるため、しっかりとした治療が必要になってきます。涙道閉塞の治療は、大きく2つに分けられます。
涙道内視鏡で閉塞部位を確認した上で慎重に閉塞を掃除して、再閉塞を予防するためチューブを入れておく治療法です。
この治療法は部分麻酔のみ、片側約10分弱で終わります。
チューブを抜去するのは約3カ月後、チューブを入れている間は約2週間毎に通院、チューブ抜去後は約1カ月毎に数回通院していただきます。
この治療法は本来の涙道を生かすという意味で優れておりますが、再閉塞のリスクもあり、様々な報告を総合すると、閉塞部位にもよりますが数年後の再閉塞率は10~80%くらいです。
ですから、涙管チューブ挿入術を受ける場合は、その次のステップである涙嚢鼻腔吻合術(るいのうびくうふんごうじゅつ)(DCR)をしっかりとできる施設での治療を受けることをお勧めします。
また、チューブを留置する時のやり方として以下の方法があります。
技術の習得が必要になりますが、安全で確実という理由で、私は涙道内視鏡と鼻内視鏡を併用した方法を採用しております。
涙道閉塞の中でも、頑固な閉塞の場合や涙管チューブ挿入術後に再発した場合に用いられる術式です。
本来の涙道を利用するのではなく、別のバイパス(迂回する別ルート)を鼻腔との間に作成します。
涙嚢鼻腔吻合術(るいのうびくうふんごうじゅつ)は、大きく分けると術式は2つ存在します。
皮膚を2cmほど切開し、バイパス(迂回する別ルート)を作成する方法です。
皮膚は切らずに、鼻内からバイパス(迂回する別ルート)を作成する方法です。
これらを比較すると、以下のようになります。
鼻外法と鼻内法の比較ですが、成功率はほとんど同じで90~95%です。
鼻外法は皮膚に傷を作り手術時間が長い(約1時間20分)というデメリットもありますが、全ての患者様に施行できるというメリットがあります。
また、皮膚に傷を作りますが、きれいに縫えば傷あとはほとんど分かりません。
鼻内法は鼻の中に病気を持っている場合は手術できないというデメリットもありますが、皮膚に傷を作らず手術時間が短い(約1時間)というメリットがあります。
当院では全例しっかりと麻酔を行い、日帰りで痛みの少ない手術を可能にしております。術式ですが、基本的に鼻内法を選択し、必要な患者様には鼻外法を選択しております。
10万人のなかで約30人が涙道閉塞になっていたというデータがありますので、1)令和3年5月の日本の人口が123,250,274人であることから推計すると、日本の涙道閉塞の患者数は約3万7千人ということになります。
① 手術時間は片側で5~10分くらいです。
目頭に麻酔の注射をした後に、涙の通り道である涙道に内視鏡を入れ、モニターで閉塞部位を確認しながらつまりを取り除いた後に専用の柔らかいチューブを涙道に留置します。
② 術後数時間は片側に眼帯をします。
術後は、麻酔の影響で一時的に目の動きが悪くなり物が二重に見える場合がありますので、それを防ぐために片方の目を眼帯で隠します。
数時間後に外していただくまでは片方の目だけで物を見るために距離感がつかみづらくなりますので、当日帰宅する際は自動車の運転は避け、なるべく付き添いの方と一緒に帰宅してください。
③ チューブを入れた刺激で、術後に涙や目やにの症状が悪化したり、目頭に違和感が出るようになります。
これらの症状は術後1~2週間で改善する方はほとんどなので、この間は根気強く点眼をしっかり指してください。
④ チューブを抜去するのは約3か月後です。
チューブ留置中ですが、鼻を強くかむこと、激しい運動、目頭を強くこすることは控えてください。チューブがずれる場合があります。なお、洗顔や洗髪、メイクなどに関する禁止事項はありません。
また、チューブが留置されている間は通り道を洗浄する必要がありますので、約2週間ごとの通院をお願いいたします。通院が難しい場合は、ご紹介いただいたクリニックへ通院していただく場合もあります。
⑤ 3か月後のチューブ抜去は5分以内には終わります。
術後の眼帯なども必要ありませんので、自動車の運転、一人での帰宅も問題ありません。
⑥ チューブ抜去後は、しばらく約1カ月ごとの通院をお願いいたします。
こちらもご紹介いただいたクリニックへ通院していただく場合もあります。
⑦ 術後再閉塞する場合があります。
再閉塞する確率や時期は閉塞部位や閉塞の程度により変わります。
再閉塞した場合は別の道、バイパスを作成する涙嚢鼻腔吻合術、いわゆるDCRなど別の手術が必要になります。
DCRは約1時間の手術となっておりますので、必ず患者様と相談の上、後日行います。
① 手術時間は片側で約1時間です。
本来の涙道が閉塞しているため、点滴の麻酔や麻酔の注射をした上で涙嚢と鼻腔の間にバイパスを作成します。
DCRは、鼻腔からバイパスを作成する「鼻内法」と皮膚を切開してバイパスを作成する「鼻外法」があります。
鼻腔からバイパスを作成するため傷あとが残らない「鼻内法」はもちろんですが、顕微鏡で丁寧に皮膚を縫い合わせますので、「鼻外法」でも傷あとが目立つことはほとんどありません。
術翌日まで眼帯をしますので、片方の目だけで物を見るために距離感がつかみづらくなります。当日帰宅する際は自動車の運転は避け、なるべく付き添いの方と一緒に帰宅してください。
② 洗顔、洗髪、シャワー浴などは翌日から可能です。
しかし、止血するために鼻内に詰めたガーゼを数日後に取るまでは、湯船につかる、運動するなど血流が良くなるようなことは控えてください。
③ 作成したバイパスに専用の柔らかいチューブを約3カ月留置します。
留置中は処置のために2週間ごとの通院をお願いいたします。
チューブ留置中は、鼻を強くかむこと、激しい運動、目頭を強くこすることは控えてください。チューブがずれる場合があります。
なお、洗顔や洗髪、メイクなどに関する禁止事項はありません。
④ 3か月後のチューブ抜去は5分以内で終わります。術後の眼帯なども必要ありませんので、自動車の運転、一人での帰宅も問題ありません。
⑤ チューブ抜去後は、しばらく約1カ月ごとの通院をお願いいたします。
01) Theincidenceofsymptomaticacquiredlacrimaloutflow obstruction among residents of Olmsted County, Minnesota, 1976-2000 (an American Ophthalmological Society thesis).Woog JJ.Trans Am Ophthalmol Soc. 2007;105:649-66.
02) Associatedmorbidityofnasolacrimalductobstruction--a large community based case-control study.Nemet AY, Vinker S.Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2014 Jan;252(1):125-30.