まぶたの術後後遺症(…
クマ取りなど、下まぶたの手術の後遺症(合併症)とは?
40代・50代で「最近なんだか疲れて見える…」と感じる方へ。
その原因、もしかすると“目の下のクマ”かもしれません。
メイクで隠しにくくなったクマを手術で改善させるのが「クマ取り(下眼瞼形成術、脱脂)」手術です。
とても魅力的な治療法ですが、実は「下まぶたの手術」は上まぶた以上に注意すべき後遺症(合併症)が存在します¹⁾。
このページでは、信頼性の高い医学論文データとまぶたの手術を専門にしている眼科専門医の視点から、下まぶたの手術後に起こり得る合併症について詳しく解説します。
「手術を受けるべきか悩んでいる…」という方も、まずは情報を知ることから始めましょう。
下まぶたの術後後遺症(合併症)データについて
2018年に韓国で発表された眼形成外科の研究では、下まぶたの美容手術後に起こった後遺症について以下のようにまとめられています¹⁾。
この研究は110名の患者を対象とした後ろ向き調査であり、頻度はあくまで目安で、術式・施設・執刀医により異なります。
合併症 | 発生頻度 |
---|---|
結膜浮腫(白目のむくみ) | 57.1% |
下眼瞼外反症(あっかんべー状態) | 28.6% |
涙小管損傷(涙の通り道が切れる) | 3.6% |
視神経症(視神経の圧迫) | 3.6% |
角膜びらん(糸が黒目に触れて傷をつける) | 3.6% |
眼窩内炎症性腫瘤(まぶたのしこり) | 3.6% |
また、米国眼形成外科学会の報告では、術後1週間以上持続する複視(二重に見える)を経験した医師は全体の23.2%にのぼり²⁾、比較的見落とされやすい合併症の一つといえます。
各合併症とその対策・注意点
① 結膜浮腫(けつまくふしゅ)
白目がゼリー状に腫れる状態です。術後24〜48時間で発症し、約90%以上が自然軽快すると報告されています³⁾。
ただし、長引く場合はステロイド点眼などの治療が必要となり、眼圧上昇など副作用への注意が必要です。
〈予防&対応〉
- 術後は氷冷・頭部挙上で腫れを抑える
- ステロイド点眼の使用時は、眼科での眼圧チェックを必ず実施
② 下眼瞼外反症(かがんけんがいはんしょう)
下まぶたが外側にめくれ上がり、黒目に密着しなくなる「あっかんべー状態」。脂肪や皮膚を過剰に除去することが主な原因とされます。
〈予防のために当院で行っている工夫〉
- 皮膚の切除量を0.5mm単位で精密に計測
- 眼球突出度を術前に評価⁴⁾
再手術には皮膚移植(耳介・対側まぶたなど)を要するケースもありますので、細心の注意が必要です。
③ 涙小管損傷(るいしょうかんそんしょう)
涙の通り道である涙小管が断裂すると、涙が常にこぼれ出る「流涙症」になります。
もし起こしてしまったら、直径1mm以下の構造を含むため、顕微鏡下での精密手術が必須です。
〈術中の対応〉
- 顕微鏡+細隙灯を使用して涙小管を確認
- 損傷が疑われたら直後に通水検査を実施
時間が経過すると損傷部位が分からなくなり、縫合不能になることがあります。
全例顕微鏡を使用して手術を行っている当院ではこのような合併症は到底考えづらいですが、(万が一の場合でも)涙道疾患も専門とする院長がが全症例で対応していますので、対応可能です。
④ 視神経症(ししんけいしょう)
術後の血腫(出血のかたまり)によって視神経が圧迫されることで、視力や視野に障害が起こることがあります。
日本眼科学会でも「視神経の圧迫は48時間以内に解除することが望ましい」とされています⁵⁾。
〈緊急対応〉
- 再手術での血腫除去
- ステロイド点滴、眼圧管理の併用
術後48時間以内の診察はとくに重要です。
⑤ 角膜びらん(かくまくびらん)
黒目(角膜)に縫合糸が接触し、傷を作る状態。目のゴロゴロ感、異物感、流涙などの症状を伴います。
埋没法の糸により、角膜が傷ついた例。
色に染まっている部分は全て傷。
多くは抗菌点眼や軟膏で5〜7日程度で改善しますが、糸が眼球に当たり続けている場合は、糸の除去が必要です。
〈当院では〉
- 髪の毛よりも細い糸を用い、すべて顕微鏡下で縫合
- 術後もスリットランプで丁寧に確認³⁾
⑥ 眼窩内炎症性腫瘤(しこり)
術後に脂肪組織へ炎症が起き、しこり(肉芽腫)ができることがあります。
多くは3〜6カ月で自然縮小しますが、径5mm以上で長期残存する場合は摘出が検討されます⁶⁾。
⑦ 複視(二重に見える)
複視は、主に下斜筋・下直筋などの眼球運動筋の損傷や術中麻酔の拡散が原因で発症します²⁾。
術後1週間を超えて複視が持続する場合は、Hess赤緑テストなどの眼位検査を行い、眼筋麻痺や瘢痕性拘縮の有無を評価します。
術後の経過(ダウンタイムの目安)
時期 | 主な状態 |
---|---|
術直後〜2日目 | 腫れと内出血のピーク、白目のむくみ(結膜浮腫)。 |
3日〜1週間 | 腫れが徐々に軽快するも、6割位は腫れが残る時期。 3日目から外出・デスクワークは可能。 |
1〜2週間 | ベースメイク可。運動も再開。 |
3週間 | アイメイク・コンタクト可。ハードな運動も問題なし。 |
1カ月以降 | 完成形に近づく、しこりや違和感の軽減。 |
〈セルフケアのポイント〉
- 氷冷(15分×数回/日)
- 頭を高くして就寝(枕2つ)
- 乾燥対策
終わりに:後悔しないための「正しい選択」を
クマ取り手術は、確かな技術と丁寧な術前評価があれば、大きな効果を得られる手術です。
しかし、下まぶたは解剖学的に難易度が高く、万が一合併症が起きた場合の修正も複雑です。
当院では、眼科専門医が手術前の眼球・涙道・まぶたの構造を詳細に評価し、全例を顕微鏡下で安全に行っています。
「手術に不安がある」「他院の結果に納得できない」など、どんなことでもお気軽にご相談ください。
セカンドオピニオンも随時受け付けております。
引用文献
- ¹ Baek JS, et al. Ophthalmologic Complications Associated With Oculofacial Plastic and Esthetic Surgeries. J Craniofac Surg. 2018;29(5):1208–1211.
- ² Becker BB. Diplopia Following Lower Blepharoplasty. J AAPOS. 2020;24(6):363.e1–4.
- ³ Oestreicher J, Mehta S. Complications of Blepharoplasty: Prevention and Management. Plast Surg Int. 2012;2012:252368.
- ⁴ Patel A, Wang Y, Massry GG. Management of Postblepharoplasty Lower Eyelid Retraction. Facial Plast Surg Clin North Am. 2019;27(4):425–434.
- ⁵ 日本眼科学会. 眼窩骨折治療ガイドライン. 2022年版.
- ⁶ Korn BS, et al. Treatment of Lower Eyelid Malposition with Dermis Fat Grafting. Ophthalmology. 2008;115(4):744–752.e2.
院長 勝村宇博
- 記事監修
- 院長 勝村宇博
- 当院は、私の専門分野であるまぶた(目もと)の手術や涙(ドライアイ、涙道閉塞)の治療を専門とした眼瞼下垂(がんけんかすい)や目もとの審美手術を中心に診療を行っています。 様々な学会に所属し、機能面と審美面両面とも妥協せずに治療を行っております。 また、レーザー治療など新しい治療も取り入れております。