私がまぶたや涙という…
【眼瞼下垂】保険診療と自費診療の真の違いと、眼科専門医がこだわる「機能と美」の融合
- 公開日:2025年12月17日
- 更新日:2025年12月17日
- まぶた(瞼)
眼瞼下垂手術を検討される患者様から、「保険診療と自費診療の違いは何か?」というご質問をよくいただきます。一般的には「保険は機能改善のみ、自費は見た目の美しさを追求できる」と説明されることが多いですが、当院の考え方は少し異なります。
本日は、眼科専門医としての医学的知見と、形成外科・美容外科領域で研鑽を積んできた経験に基づき、手術の目的、術式、そして仕上がりへのこだわりについて解説します。

1. 保険診療と自費診療の境界線
まず、制度上の区分けについて明確にします。当院における判断基準はシンプルです。
- 保険診療
- まぶたが下がっており、視野障害などの「機能的な障害」が認められる場合。
- 自費診療
- 機能的な障害はなく、「見た目の改善」が主な目的である場合。
しかし、これはあくまで「適応」の話です。「保険診療だから見た目は二の次で良い」とは私は微塵も考えていません。
当院では、保険診療であっても自費診療であっても、0.5mm単位の細かな二重幅調整を行い、審美性を追求します。この姿勢こそが、手術の質を高めるサイクルを生み出すと考えているからです。
「保険診療での膨大な症例経験を、自費診療の繊細なデザインに生かす」
「自費診療で磨かれた美的センスと技術を、保険診療の機能再建に還元する」
この相乗効果により、どちらの区分であっても、眼球保護などの機能回復と整容面(見た目)の双方を満たす手術を提供しています。

【重要:修正手術に関する取り決め】
ただし、制度上の「線引き」については予めご理解いただく必要があります。
私たちは一回の手術で最高の結果が出るよう全力を尽くしますが、もし術後に修正が必要となった場合、その対応は以下のように区別されます。
- 機能的な問題の修正
(保険適用) - 「再びまぶたが下がってきた(再発)」など、機能的な障害が残っている場合の修正。
- 審美的な目的のみの修正
(自費診療) - 機能的には問題がなく、「二重幅をもう少し広げたい」「形を微調整したい」といった、見た目の好みだけを追求する修正。
審美的な微調整は「病気の治療」という保険診療の定義から外れるため、たとえ最初の手術が保険診療であったとしても、修正手術は「自費診療」での対応となります。
この点をご了承いただいた上で、手術に臨んでいただければと思います。
2. 「傷跡」へのこだわり:使用する糸の違い
手術の痕跡を限りなく目立たなくするために、当院では使用する「糸」にも明確な基準を設けています。
- 保険診療
- 通常の美容外科手術で使用されるレベルの極細糸を使用。
- 自費診療
- さらに一段階細い、マイクロサージャリー(顕微鏡下手術)レベルの糸を使用。
眼科手術で培った顕微鏡下での操作技術を生かし、極細の糸で緻密に縫合することで、皮膚の切開線(傷跡)はより目立ちにくくなります。これは、美しさを最優先する自費診療ならではの付加価値と言えます。
3. 術式の選択:解剖学に基づいたアプローチ
眼瞼下垂の手術には様々な術式が存在しますが、当院では眼科医としてまぶたの解剖生理を熟知した上で、確実な方法を選択しています。
挙筋前転術と挙筋短縮術
基本的には、腱膜を固定し直す「挙筋前転術」を行いますが、それだけではありません。まぶたを上げる力(挙筋機能)自体が弱い症例に対しては、さらに奥にあるミュラー筋を含めて短縮する「挙筋短縮術」を行います^1。

一部ではミュラー筋への操作を避ける理論も存在しますが、重度の下垂において挙筋機能が不十分な場合、ミュラー筋の短縮は機能回復に不可欠であり、多くの眼科手術書においても標準的な手技として確立されています^2。
「切らない眼瞼下垂」のリスク
埋没法などを応用した「切らない眼瞼下垂手術」は手軽ですが、医学的には推奨しません。瞼板と挙筋を糸で結ぶだけの手法は、二重のラインが消失したり、矯正効果が後戻り(再発)したりするリスクが切開法に比べて高いためです^3。当院では、長期的な安定性を重視し、確実な切開手術を推奨しています。

4. 「自然」という言葉を使わないデザイン共有
カウンセリングにおいて、「自然な感じで」という言葉は非常に主観的であり、医師と患者様の間でイメージのズレを生む原因となります。そのため、当院では曖昧な表現を避け、「ブジー」という専用の針金を用いたシミュレーションを行います。
鏡を見ながらブジーを当て、実際の二重のラインを作成し、「この幅で手術を行うとどうなるか」を視覚的に共有します。

ただし、以下の点をご理解いただく必要があります。
- 皮膚の伸展
- 皮膚は柔らかく伸びる性質があります。
- 眉毛の位置変化
- 術後、視野が確保されると、それまで無意識に上げていた眉毛が下がります。
眉毛が下がると、その分まぶたの皮膚が被さるため、二重幅は術前よりも広くなったり狭くなったりと変化します。術後の変化要因は無限大にあり、100%の予測は不可能ですが、ブジーによるシミュレーションで可能な限り誤差を埋める作業を行います。
5. ダウンタイムと痛みへの対策
手術を検討する上で、最も不安を感じられるのが「痛み」と「術後の腫れ(ダウンタイム)」かと思います。当院では嘘偽りなく、医学的な事実をお伝えしています。
手術中の痛みと麻酔のコントロール
痛みへの不安から「麻酔をたくさん使ってほしい」と思われるかもしれませんが、実は麻酔量にはジレンマがあります。
局所麻酔を大量に使用すると、組織が膨らみ、術後に「術後の左右差」が出やすくなり、再手術のリスクが上昇します。また、笑気麻酔の長時間使用は吐き気のリスクを高めます。
そのため、当院では「仕上がりの美しさ」を優先し、必要最小限の麻酔量でコントロールします。もちろん、痛みが強い場合は追加可能ですし、手術中は会話ができますので、遠慮なく執刀医である私にお伝えください。
「しっかりした手術」は腫れます
大原則としてお伝えしたいのは、「将来を見据えたしっかりとした手術をすると、まぶたは腫れる」ということです。
短期間で効果が消失してしまうような簡易的な手術(埋没法など)とは異なり、当院では数年後、数十年後のことも考えた内部処理を行うため、顕微鏡を用いてどれだけ丁寧に手術を行っても、一定の腫れは避けられません。
術後の経過と復帰の目安
術後の経過は以下のスケジュールが目安となります。
- 術後48時間
(~2日目) - 「最も腫れる時期」です。
この期間に活動しすぎて血流が良くなると腫れが悪化するため、運動は控え、在宅ワーク程度に留めてください。とにかく保冷剤でまぶたを冷やすことが重要です(寝ている間も冷やしていただきたいほどです)。
- 術後3日目~
- デスクワークなどであれば復帰可能です。
- 術後5日目~
- カモフラージュ用のメガネをかけて外出される方が増えてきます。
- 術後1週間
(抜糸) - 腫れはピーク時の60%程度まで回復します。ここで抜糸を行い、ランニングなどの運動が可能になります。
- 術後2週間
- 腫れは80~90%程度まで回復します。
筋トレなど体に強い負荷がかかる運動は、傷がしっかりと固まる術後3週間以降をお勧めしています。
6. 「食い込み」は耐久性の証:内縫い法の採用
二重のラインが定着するまでの過程で、一時的に二重のラインが強く食い込むことがあります。
埋没法や、皮膚の表面だけを縫う外縫い法であれば、食い込みは少ないですが、その代わり二重が浅くなり、将来的にラインが消失するリスクが高まります^4。

当院では「内縫い法(内部処理)」を採用しています。これは瞼板と皮膚を内部で強固に固定する方法で、二重が取れにくい(永続性が高い)のが特徴です。
構造上、術後初期は食い込みが出やすくなりますが、これも顕微鏡を用いて組織のダメージを減らすことで、可能な限り軽減させています。
「一時的な食い込み」を受け入れていただくことで、「一生モノの安定した二重」を手に入れることができるのです。

結語
眼瞼下垂手術は、機能回復の手術であると同時に、お顔の印象を決定づける重要な手術です。
しかし、生体を扱う医療である以上、思ってもみない結果になる可能性はゼロではありません。そのため、「必ず思い通りの結果になります」といった安易なお約束はできません。
だからこそ、私は「手術用顕微鏡を用いて、その時の自分のベストを必ず尽くす」ことをお約束します。
眼科専門医としての誇りを持ち、細部まで妥協のない手術を提供することに、私の持てる全ての技術を注ぎます。
引用文献
- 1. Anderson RL, Dixon RS. Aponeurotic ptosis surgery. Arch Ophthalmol. 1979;97(6):1123-1128.
- 2. Beard C. Ptosis. 3rd ed. St. Louis: Mosby; 1981.
- 3. Salander BJ. The minimal incision blepharoplasty: Avoiding recurrence. Plast Reconstr Surg. 2005;116(3):942-943.
- 4. Chen WPD. Asian Blepharoplasty and the Eyelid Crease. 3rd ed. Elsevier; 2016.

院長 勝村宇博
- 記事監修
- 院長 勝村宇博
- 当院は、私の専門分野であるまぶた(目もと)の手術や涙(ドライアイ、涙道閉塞)の治療を専門とした眼瞼下垂(がんけんかすい)や目もとの審美手術を中心に診療を行っています。 様々な学会に所属し、機能面と審美面両面とも妥協せずに治療を行っております。 また、レーザー治療など新しい治療も取り入れております。
