私がまぶたや涙という…
まぶたが重い!原因は眼瞼下垂?
- 2025年5月30日
- まぶた(瞼)
私の外来には、まぶたに関する悩みを抱えた患者さんが多く来院されます。なかでもよく聞かれるのが次のような訴えです。
- 「まぶたが開けづらい」
- 「まぶたが重い」
- 「まぶたのせいで常に眠たく感じる」
- 「おでこの筋肉を使って目を開けるから、頭痛や肩こりがひどい」
こうした症状の背景には、加齢や疾患が関係している場合があります。今回は「まぶたが重い」と感じる原因や、対処方法について解説します。
目次
原因
まぶたが重く感じる原因のなかで最も多いのは、「加齢性眼瞼下垂」です。これは加齢により、まぶたを持ち上げる筋肉(眼瞼挙筋)やその腱膜が伸びたり緩んだりすることで、まぶたが下がってくる状態です。下着のゴムが経年劣化で伸びるのと似た現象と考えるとわかりやすいかもしれません。
見た目では眼瞼下垂のように見えて、実際には皮膚そのものが弛んでいる「眼瞼皮膚弛緩症」であることもあります。また、両者が同時に存在するケースも多くみられます。 年齢を問わず、若い方でも眼瞼下垂を起こしていることがあります。
特に「隠れ眼瞼下垂」と呼ばれるタイプは、一見それほど下がっていなくても、実は無意識のうちにおでこの筋肉で目を開けて補っている状態です。一重まぶたの方や長年コンタクトレンズを使用している方に多く見られます¹。
さらにまぶたの症状は、眼科領域に限らず、他の疾患が原因となっていることもあります。例えば、以下のような病気がまぶたの下垂を引き起こすことがあります。
- 脳腫瘍や脳動脈瘤
- 脳梗塞
- 顔面神経麻痺
- 糖尿病性神経障害
- 重症筋無力症²
私自身の経験でも、年に1例程度、まぶたの下がりが実は脳や神経の疾患によるもので、他科の精査が必要になったケースがあります。特に「急に」「片側だけ」まぶたが下がった場合は、注意が必要です。
また、現代の生活習慣の変化も無視できません。長時間のスマートフォン使用やデスクワークでまばたきの回数が減ると、眼精疲労やドライアイを引き起こし、まぶたが重く感じられるケースもあります。
自力で治るか?
「マッサージでまぶたを上げましょう」「たるみに効くツボがありますよ」といった情報がインターネットやメディアで紹介されることがあります。
しかし、伸びてしまったゴム紐を指で押しても元には戻らないのと同じように、緩んだ筋肉や皮膚をマッサージやツボ押しで改善することは現実的ではありません。
私自身、年間1800件前後のまぶたの手術を行っていますが、マッサージやトレーニングで眼瞼下垂が改善した例はひとつも見たことがありません。
さらに、無理なマッサージや皮膚の引っ張りは、皮膚のたるみをむしろ悪化させるリスクがあります。医学的にも、マッサージやトレーニングによって眼瞼下垂が改善するというエビデンスは現在のところ存在していません³。
どんな時に手術を考えた方が良いのか?
眼瞼下垂や眼瞼皮膚弛緩症は、機能的な問題がある場合、健康保険の適用対象となります。具体的には、まぶたが視野を遮って上の方が見づらくなっているケースです。
ご自身でまぶたを持ち上げてみて、視界が明るくなったり広がる感覚がある場合は、手術の適応がある可能性が高いです。このようなケースでは、視野検査(静的視野検査など)を行い、医師が保険適用の可否を判断します⁴。
一方で、視野に支障はないけれど見た目が気になるという場合には、自費診療として手術を受けることも可能です。美容目的に見えるかもしれませんが、「まぶたが垂れていることが気になる」という心身のストレスを取り除く意味でも、手術は選択肢の一つです。
治療
まぶたが重くなる原因に、脳や神経など他の科に関わる疾患がある場合は、まずそちらの治療が優先されます。当院では、必要に応じて脳神経外科や内科と連携し、MRIや血液検査を含む総合的な診断を行っています。
眼瞼下垂や眼瞼皮膚弛緩症そのものに対しては、現時点で有効とされる治療法は「手術」しかありません。
眼瞼下垂に対しては、たるんだ皮膚や伸びた腱膜を切って短くし、再固定することで、まぶたの開きを改善します。
また、眼瞼皮膚弛緩症に対しては、まぶたの皮膚を切除することで改善させます。
この手術はミリ単位の繊細な操作が必要なため、当院では4〜10倍の高倍率の顕微鏡を使用して手術を行っています。これにより、不要な組織を傷つけることなく、腫れやダウンタイムを最小限に抑えつつ、左右差の少ない仕上がりが可能になります⁵。
術後は、軽い腫れや内出血が数週間から数カ月程度みられる場合がありますが、個人差があります。また、ごく稀に左右差やまぶたの閉じにくさといった合併症が生じることもありますが、術前のカウンセリングでリスクをしっかりお伝えし、丁寧な施術を心がけています。
術後の経過と生活の注意点
手術後は腫れや内出血が落ち着くまでに1週間ほどかかることが一般的です。特に手術翌日は腫れがピークになることがありますが、徐々に引いていきます。痛みは軽度で、鎮痛剤の内服でコントロール可能なことがほとんどです。
洗顔や入浴は翌日から可能ですが、目元を強くこすらないように注意してください。術後のアイメイクについては、術後の状態を保つという観点から術後3週間以降を目安に再開されることをおすすめしています。詳細は術後の経過によって医師が個別に判断します。
また、術後数ヶ月にわたり、まぶたの形や開き具合に多少の変化がみられることがあります。特に左右差については、腫れの引き方にも左右されるため、術後6カ月程度は経過を見守る必要があります。
よくある患者さんの訴え(事例紹介)
実際に当院を受診された患者さんの中には、次のような悩みを抱えている方も多くいらっしゃいます。
- 「毎朝アイプチでまぶたを持ち上げていたが、年齢とともに限界を感じた」
- 「職場で『眠そう』と誤解されることがストレスだった」
- 「運転中に上の方が見づらく、信号が見えづらいと感じていた」
- 「美容目的と思われるのが不安で受診をためらっていた」
このような訴えは、機能面と心理面の両方に影響を及ぼすことが多く、手術によって外見の印象が明るくなるだけでなく、心理的な負担が軽くなるケースもあります。
簡易セルフチェック
ご自身で「眼瞼下垂かも?」と思ったときに、以下の項目をチェックしてみてください。
鏡で見たときに左右のまぶたの高さが違う | |
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目を開けるときに、おでこにシワが寄る | |
目を大きく開けていないと眠そうに見える | |
まぶたが視界にかかる感じがある | |
朝よりも夕方のほうがまぶたが重く感じる |
2つ以上当てはまる場合は、眼瞼下垂やその予備軍である可能性があります。
放置すると日常生活に支障をきたすこともあるため、早めの診察をおすすめします。
通院から手術までの流れ
-
1初診・カウンセリング
診察と視野検査などを行い、手術の適応を判断します。 -
2手術日のご予約
診察内容に納得いただいたうえで、手術日を決定します。 -
3手術当日(局所麻酔)
手術時間は片側で約30~40分、両側で60~70分です。 -
4術後フォロー
術後1週間前後で抜糸と経過観察を行います。
おわりに
「まぶたが重い」「目が開けにくい」といった症状は、ご自身では「老化だから仕方ない」と思い込みやすいものです。しかし、早期に診断・治療することで、外見だけでなく生活の質そのものが向上する可能性があります。
美容目的か、保険診療の対象か、判断に迷われる方も多くいらっしゃいますが、まずは一度ご相談ください。眼瞼手術の専門家として、あなたのまぶたのお悩みに正確かつ丁寧にお応えいたします。
引用文献
- 1. Kakizaki H, et al. “Aponeurotic blepharoptosis and its correlation with contact lens wear.” *Ophthalmic Plastic & Reconstructive Surgery*. 2010;26(6):417–419.
- 2. American Academy of Ophthalmology (AAO). “Ptosis: Signs, Causes and Treatment.” [https://www.aao.org]
- 3. Takahashi Y et al. “Efficacy of eyelid massage and training for blepharoptosis: A systematic review.” *Japanese Journal of Ophthalmic Surgery*, 2020;33(4):253–258.
- 4. 厚生労働省 保険診療における眼瞼下垂の取扱い.[https://www.mhlw.go.jp/]
- 5. 日本眼形成再建外科学会「眼瞼下垂手術のガイドライン」2021年版
院長 勝村宇博
- 記事監修
- 院長 勝村宇博
- 当院は、私の専門分野であるまぶた(目もと)の手術や涙(ドライアイ、涙道閉塞)の治療を専門とした眼瞼下垂(がんけんかすい)や目もとの審美手術を中心に診療を行っています。 様々な学会に所属し、機能面と審美面両面とも妥協せずに治療を行っております。 また、レーザー治療など新しい治療も取り入れております。