まぶたの…
クマ取りなど、下まぶたの手術の後遺症(合併症)とは?
疲れたように見える「下まぶたのクマ」。
これを手術で改善させるのが「クマ取り(脱脂)」手術です。
しかし、上まぶたと比べて下まぶたの手術は重力に対抗しなければならず、後遺症(合併症)により気を付けなければなりません。
前回の「眼瞼下垂や重瞼(二重)術など、上まぶたの手術の後遺症(合併症)とは?」でもご紹介いたしましたが、2018年に韓国のJi Sun Baek先生が発表した「Ophthalmologic Complications Associated With Oculofacial Plastic and Esthetic Surgeries」には、まぶたなどの手術後に後遺症(合併症)が出たケースをまとめています。
今回は、この中から「下まぶたの手術の後遺症(合併症)」について記載します。
下まぶたの術後後遺症(合併症) データについて
上記の論文によると、下まぶたの後遺症(合併症)は以下のようになります。
結膜浮腫 | 57.1% |
下眼瞼外反症 | 28.6% |
涙小管損傷(断裂) | 3.6% |
視神経症 | 3.6% |
角膜びらん(縫合糸の露出) | 3.6% |
眼窩内炎症性腫瘤 | 3.6% |
① 結膜浮腫(けつまくふしゅ)
a. 結膜浮腫とは?
手術では、切れた血管からの出血を高周波などで止血します。
そのため、一時的に血流が悪くなります(しばらくすると補うようにして新しい血管が開通しますので、あくまでも「一時的に」です。)。
まぶたの血管は白目(結膜)の血管とつながっていますので、血流の変化は白目にも影響し、白目がむくむ、いわゆる「結膜浮腫」になります。
私の経験上も、上まぶたよりも下まぶたの手術後の方が「結膜浮腫」の頻度が高いと思います。
b. 術後結膜浮腫になってしまったら?
とはいえ、結膜浮腫は数日すればほとんどが改善します。
しかし、文献上は改善しづらい場合もあるようで、その場合は炎症止めの点眼薬を使用します。
炎症止めの点眼薬を使用する場合は、以下の副作用が出てこないかチェックするために眼圧測定を行います。
- 眼圧上昇
- ステロイド緑内障
眼圧測定は、眼科の知識や技術が必要です。
② 下眼瞼外反症(かがんけんがいはんしょう)
a. まぶたの解剖
まぶたの中には脂肪が入っており、まぶたの中にある「壁」により前に出てこないようになっています。
そして、この脂肪は以下の大事な役割を担っています。
- 眼球を守るクッションの役割
- まぶたを眼球にフィットさせる役割
b. なぜ下眼瞼外反症になるの?
脂肪が加齢とともに出てくるといわゆる「クマ」になりますが、「クマ取り」手術は脂肪の位置を変化させるためにまぶたが眼球にフィットしなくなる可能性があります。
そしてその場合は下からの支えがなくなり、まぶたが外に反っくり返ってしまうことがあります。
これが「下眼瞼外反症」、いわゆる「あっかんベー状態」です。
c. 術後下眼瞼外反症になったら?
基本的には手術を行い治療しなければなりません。
皮膚を取りすぎた場合は、他の部分(反対のまぶたや耳の裏など)から皮膚を移植しなければならないこともあります。
これを防ぐには様々な技術が必要ですし、そもそもこれらの正確な診察には眼科の診察室にある細隙灯顕微鏡(スリット)での診察が必要です。
③ 涙小管損傷(断裂)とは、「涙の通り道が切れる」こと。
涙小管とは?
涙は眉毛の後ろにある「涙腺(るいせん)」で産生され、眼の表面にいきわたった後に目頭にある涙の通り道「涙道(るいどう)」を通り鼻に抜けていきます。
涙道は部位により様々な名前がついていますが、目頭に近い細い部分を「涙小管(るいしょうかん)」といい、上まぶたの涙小管を「上涙小管(じょうるいしょうかん)」、下まぶたの涙小管を「下涙小管(かるいしょうかん)」と呼びます。
涙小管断裂(損傷)とは?
まぶたの手術、特に下記の手術時には、下涙小管の近くを切開するため涙小管を損傷する場合があります(下記の手術の詳細が分からない方は、リンクを付けましたので参照してください。)。これを「涙小管断裂(損傷)」といいます。
術後涙小管断裂(損傷)になったらどうなるの?
涙小管断裂(損傷)になると、涙の行き場がなくなり涙が目からこぼれてしまうようになります。
これを「流涙症(りゅうるいしょう)」といいます。
涙小管断裂(損傷)を起こす理由
「涙小管断裂(損傷)」を起こしてしまう原因ですが、私は「顕微鏡を使用していない医師が目もとの手術を行っている」ためであると考えております。
涙小管の直径は1mmもありません。
これがまぶたの他の組織の中に埋め込まれているのです。
この「ミクロ(顕微鏡)」の世界に「マクロ(肉眼やルーペ)」で手術をしたら、涙小管損傷のような後遺症(合併症)が起きるのは当たり前だと思います。
「涙小管断裂(損傷)」は明らかな手術の失敗です。時間が経過してしまうと、「涙小管断裂(損傷)」は治療すら難しくなります。
術後涙小管断裂(損傷)になってしまったら?
断裂した涙小管を手術でつなぎ合わせる必要があります。
場合によっては全身麻酔が必要になりますし、顕微鏡を使用して専門の医師がつなぎ合わせなければなりません。
また、先ほども書きましたが、断裂してから1週間以上経過してしまうと断裂したところが分からなくなり治療することすらできなくなる場合もあります。
そもそも、「涙小管断裂(損傷)」は眼科の診察室にある細隙灯顕微鏡(スリット)で診察し、「通水検査(つうすいけんさ)」という検査をしてみて初めて分かります。
つまり、涙道に関する知識や技術がないと、自分の手術のせいで涙小管断裂を起こしたかどうかさえ分かりません。そのような医師の手術を受けたいですか?
私は、涙道も専門の一つであり、すべての診療、手術を行っております(私は顕微鏡を使用して全症例手術しておりますので、そもそも自分の手術で「涙小管断裂(損傷)」を起こすことはありませんが…)。
④ 視神経症(ししんけいしょう)とは「視神経が圧迫されること」。
視神経とは?
眼球はカメラと同じ構造をしています。
つまり、前から入ってきた光はレンズ(角膜や水晶体)で屈折し、フィルム(網膜)に当たります。
そして、フィルム(網膜)でキャッチした光を脳に伝えるのが通信ケーブルに相当する「視神経」です。
視神経症とは?
まぶたの手術をした後に、中でじわじわと出血して血がたまる(血種、けっしゅ、といいます)ことがあります。
血種は小さければ問題ありませんが、大きい血種の場合は視神経を圧迫することがあります。
これを「視神経症」といいます。
視神経症になったらどうなるの?
目で見た情報を頭に伝える通信ケーブルが壊れるのと同じで、情報が頭に送られなくなり視力障害や視野障害をきたすことがあります。
術後視神経症になってしまったら?
再手術で血種を取り除き、出血を止める必要があります。
以下の文献によると、血種ができてから48時間以内に治療した方が後遺症を残さないようです。
Wohirab, T.M., Maas, S., et al.: Surgical decompression in traumatic optic neuropathy. Acta Ophthalmol
Scand 80: 287-293 2002.
⑤ 角膜びらん(縫合糸の露出)とは、「糸により眼球に傷がつくこと」。
角膜びらんとは?
まぶたの手術では、糸で様々な場所を縫います。
切った皮膚のみでなく、まぶたの中でいろいろな組織を縫い合わせます。
そして、中の糸が黒目に当たることがあり、このような場合に眼球表面に傷がつき「目がゴロゴロする」「目に違和感がある」などの症状が出てきます。
術後角膜びらんになってしまったら?
角膜の傷の有無を細隙灯顕微鏡(スリット)で確認し、原因となっている糸を取り除く必要があります。
まぶたの手術で使用する糸は髪の毛よりも細いため、手術をする際も顕微鏡を使用する必要があります。
当院は全例顕微鏡を使用して手術を行っております。
⑥ 眼窩内炎症性腫瘤(がんかないえんしょうせいしゅりゅう)とは「まぶたの中にしこりができること」。
眼窩内炎症性腫瘤とは?
人間の体はうまくできており、傷ついても自分で治してくれます。
しかし、その機構が過剰に働いてしまうことがあります。
まぶたの手術後に傷を治す力が過剰に働き、まぶたの中にしこりができることを「眼窩内炎症性腫瘤」といいます。
術後眼窩内炎症性腫瘤になったらどうするの?
基本的には経過観察で治癒します。
しかし、しこりが長期間できる場合は再手術で切除する場合もあります。
終わりに
手術を受けるのは、人生でそれほど多くはないと思います。
安易に手術を受けることはお勧めいたしません。
しかし、しっかりご自身で考えた上で手術を受けることを希望される場合は、私は自分のすべてを注ぎ込み手術と向き合います。
「手術を受けるかどうか悩んでいる」方は、一度ご相談ください。
院長 勝村宇博
- 記事監修
- 院長 勝村宇博
- 当院は、私の専門分野であるまぶた(目もと)の手術や涙(ドライアイ、涙道閉塞)の治療を専門とした眼瞼下垂(がんけんかすい)や目もとの審美手術を中心に診療を行っています。 様々な学会に所属し、機能面と審美面両面とも妥協せずに治療を行っております。 また、レーザー治療など新しい治療も取り入れております。