私がまぶたや涙という…
先天性眼瞼下垂とは?眼科専門医が解説する「視力を守る」手術法と治療時期
- 公開日:2025年12月22日
- 更新日:2025年12月22日
- まぶた(瞼)
まぶたの手術と涙の治療を専門とし、年間2000件前後の手術を院長である私がすべて執刀している「かつむらアイプラストクリニック」。
今回は、生まれつきまぶたが下がっている「先天性眼瞼下垂(せんてんせいがんけんかすい)」について院長である私がお話します。
「子供の目の大きさが左右で違う」「眠そうな目をしている」といった見た目の悩みはもちろんですが、それ以上に親御さんが心配されるのは「将来の視力への影響」ではないでしょうか。
インターネット上には手軽さを強調した「切らない手術」を推奨する情報も多く見られますが、当院では先天性眼瞼下垂に対して、切らない手術(埋没法を利用したタッキングなど)は原則として推奨しておりません。
なぜなら、まぶたの手術は単に目が大きくなれば良いというものではなく、「目の機能(視力の発達や角膜の状態)」を守りながら、解剖学的に正しく行う必要があるからです。
この記事では、眼科専門医かつ眼形成外科医である院長の勝村が、先天性眼瞼下垂の正しい知識、見過ごしてはいけない視力発達との関係、そして当院が採用している確実性の高い術式(顕微鏡下での挙筋前転術・ゴアテックスシート併用前頭筋つり上げ術)について詳しく解説します。
1. 先天性眼瞼下垂とは
先天性眼瞼下垂とは、出生時から上まぶた(眼瞼)を挙げる筋肉の働きが弱く、まぶたが下がっている状態を指します。

眼瞼下垂は大きく「先天性」と「後天性(加齢など)」に分けられますが、小児期に見られる眼瞼下垂の約90%が「先天性」であるという報告もあります¹。その大部分は片眼性(片目だけ)ですが、両眼に症状が現れることもあります。
多くの場合は遺伝性ではなく、胎児期における筋肉や神経の発達過程での偶発的な形成不全が原因です。
2. 先天性眼瞼下垂の主な症状とセルフチェック
乳幼児期のお子様の場合、ご自身で「見えにくい」と訴えることは稀です。そのため、親御さんが以下のサイン(代償動作)に気づくことが重要です。
- 目を開ける時に
眉毛が上がる - まぶたの力だけで開けられないため、おでこの筋肉(前頭筋)を使って一生懸命に目を開けようとします。
- 顎を上げてモノを見る
(チンアップ) - 下がったまぶたの下から覗き込むような姿勢をとります。
- 眠そうな目つき
- 黒目(瞳孔)の一部または大部分がまぶたで覆われています。
- 左右の目の
大きさが違う - 片側のみの場合、顕著な左右差が見られます。

3. なぜ起こるのか?(原因)
まぶたを持ち上げる主役である「眼瞼挙筋(がんけんきょきん)」という筋肉、またはその筋肉を動かす「動眼神経」が、生まれつき十分に発達していないことが主な原因です。
医学的には、眼瞼挙筋の筋線維が一部欠損していたり、繊維化(硬くなること)して脂肪組織に置き換わっていたりする状態が見られます²。
これは後天性(加齢性)の眼瞼下垂とは異なり、単に皮膚が伸びたり筋肉が緩んだりしているわけではないため、治療のアプローチも根本的に異なります。
4. 放置するリスク:眼科専門医が危惧する「弱視」への影響
美容外科や形成外科のみのクリニックと異なり、私、つまり眼科専門医が院長である当院が最も重要視しているのは「視機能(ものを見る力)」の発達です。
視覚の機能は、生後から8歳くらいまでの間に、モノを鮮明に見ることによって発達します。しかし、下がったまぶたが瞳孔(黒目)を覆ってしまうと、以下のような深刻な問題を引き起こすリスクがあります。


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1形態覚遮断弱視(けいたいかくしゃだんじゃくし)
光や映像が網膜に届かず、視力が正常に育たない状態です。研究によると、先天性眼瞼下垂の小児は、そうでない小児に比べて弱視のリスクが13.45倍も高いというデータがあります³。 -
2不同視弱視・乱視
まぶたの圧迫によって眼球のカーブが歪み、強い「乱視」を引き起こしたり、左右の視力差が大きくなることで、良い方の目ばかりを使ってしまい、悪い方の目の視力が育たないことがあります。
当院は、眼科専門医である私、院長が診察を行うため、単にまぶたの形を見るだけでなく、視力検査や角膜の形状解析を行い、「今すぐ手術が必要な状態か」「視力は順調に育っているか」を医学的に正確にジャッジできるのが強みです。
5. 当院が「切らない眼瞼下垂手術」を行わない理由
他院の広告などで「切らない眼瞼下垂手術(埋没法を利用したタッキングなど)」を目にすることがあるかもしれません。手軽でダウンタイムが短いというメリットが強調されますが、当院では先天性眼瞼下垂に対して、この方法は行いません。
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1先天性眼瞼下垂における「再発率」の高さ
先天性眼瞼下垂は、筋肉そのものが硬く、動きが悪い状態です。糸で縛って一時的にまぶたを折りたたんでも、筋肉の機能自体は改善しないため、後戻り(再発)するリスクが非常に高いことが多くの研究で示唆されています。 -
2解剖学的に正しい位置へ修正することの重要性
確実な治療のためには、皮膚を切開し、内部の構造(眼瞼挙筋や腱膜)を直接確認した上で、物理的に前転(短縮)させる、あるいは他の筋肉の力を借りる処置が必要です。
当院では、一時的な見栄えではなく、長期的な機能回復と安定を最優先に考えています。
6. かつむらアイプラストクリニックの治療法
当院では、患者様の眼瞼挙筋の機能(どれくらい動くか)に合わせて、以下の術式から最適なものを選択します。いずれも手術用顕微鏡を使用し、ミクロ単位の調整を行う「直視下」の手術です。
(1)挙筋機能が残っている場合:挙筋前転術 または 挙筋短縮術
まぶたを持ち上げる力が多少なりとも残っている(一般的に挙筋機能が4mm以上)場合に行います。
伸びてしまっている、あるいは動きの悪い眼瞼挙筋腱膜を探し出し、瞼板(まぶたの縁にある軟骨)に縫い縮めて固定します。これにより、弱い力でも効率よくまぶたが挙がるようになります。

(2)挙筋機能が弱い場合:前頭筋つり上げ術(ゴアテックスシート使用)
眼瞼挙筋の力がほとんどない(挙筋機能が4mm未満)場合に行います。
おでこの筋肉(前頭筋)の力を利用してまぶたを開ける方法です。
この手術では、眉毛の上とまぶたの縁を連結するための「つり上げ材」が必要になりますが、当院では「ゴアテックスシート(ePTFE)」を使用しています。
なぜ「筋膜」ではなく「ゴアテックス」なのか?
一般的に、患者様自身の太ももの筋膜(大腿筋膜)を移植する方法も知られていますが、当院では以下の理由から採用しておりません⁴⁵。
- 1.術後収縮による
合併症リスク - 移植した筋膜は、時間の経過とともに収縮(縮む)する性質があります。これにより、術後にまぶたが上がりすぎて目が閉じられなくなる「兎眼(とがん)」や、まつ毛が内側に入り込んで眼球を傷つける「睫毛内反症(しょうもうないはんしょう)」を引き起こすリスクがあります。
- 2.確実な安定性
- ゴアテックスシートは生体適合性に優れた医療用素材であり、術後の収縮がほとんどありません。そのため、長期間にわたり狙った通りのまぶたの高さを維持できるというメリットがあります。
- 3.身体への負担軽減
- 筋膜を採取するために太ももにメスを入れる必要がないため、身体への侵襲(ダメージ)を最小限に抑えられます。

(3)手術用顕微鏡を用いた精密な手術
当院の最大の特徴は、手術用顕微鏡を用いて、肉眼では見えない神経や血管を識別しながら手術を行う点です。
これにより、出血や腫れを最小限に抑え、解剖学的に正確な修復が可能となります。「ベストを尽くす」ために、妥協のない環境で手術を行います。

7. 手術を行う最適な時期(年齢)について
手術のタイミングは、症状の重さと目的に応じて決定します。
- 1.視力発達に影響がある場合(重度)
- 年齢に関わらず、早期(0歳〜3歳くらい)の手術が必要です。眼科専門医として、弱視のリスクがあると判断した場合は優先的に治療を勧めます。この場合、埼玉県立小児医療センターなど、連携している専門病院をご紹介させていただくことになります。
- 2.整容面(見た目)の改善が主目的の場合
- 視力に問題がなければ、局所麻酔が可能になる年齢(小学校高学年〜中学生以降)や、本人が見た目を気にし始める就学前(5〜6歳)が一つの目安となります。局所麻酔であれば、術中に目の開き具合を確認しながら微調整ができるため、より精度の高い仕上がりが目指せます。
8. 手術に伴うリスク・注意点
外科手術である以上、メリットだけでなくリスクも存在します。
これらを術後にどうケアするかも、眼科医としての重要な役割です。
- 閉瞼不全
(目が完全に閉じない) -
まぶたを挙げやすくするため、術後は目が完全に閉じなくなることがあります(特に睡眠時)。通常は時間の経過とともに馴染みますが、乾燥による角膜障害(ドライアイ)を防ぐため、適切な点眼や眼軟膏の処方、指導を行います。

- 左右差とヘリングの法則
- 片目だけ手術をした場合、脳の信号のバランスが変わり、手術をしていない側の目が下がってくることがあります(ヘリング現象)。人間の顔は元々左右非対称であるため、完璧な左右対称を作ることは困難ですが、顕微鏡下で可能な限りバランスを調整します。
9. 費用と保険適用について
先天性眼瞼下垂の治療は、原則として健康保険が適用されます。
「病気」としての治療になるため、美容外科的な自費診療とは異なり、3割負担(お子様の場合は自治体の医療費助成制度の対象)での治療が一般的です。
!【ご注意:保険適用外となるケース】
ただし、まぶたの下がりが非常に軽度で、視野や視力発達に全く支障がない(医学的に病気と判断されない)場合は、整容的(美容)な改善が主目的とみなされ、保険適用外(自費診療)となることがあります。
ご自身の症状が保険適用の対象となるかどうかは、診察時に眼の状態を確認した上で正確にご説明いたします。
※大人の先天性眼瞼下垂(これまで治療してこなかった方)の手術も、医学的適応があれば保険適用で行っております。

10. まとめ
先天性眼瞼下垂の手術は、単に「目を大きくする」だけではなく、「視覚という重要な機能を守り、育てる」ための治療でもあります。
「切らない」という手軽さではなく、「解剖学的に正しい治療」を選択することが、将来的なQOL(生活の質)の向上につながると確信しています。
また、眼科専門医である私であれば、手術による見た目の改善はもちろん、術後の角膜の状態や視力のことまでトータルでサポートが可能です。
当院では、手術用顕微鏡を駆使し、私が持てる技術の全てを注いで手術にあたります。
お子様の目についてお悩みの方、あるいはご自身のまぶたについて諦めていた方は、ぜひ一度ご相談ください。

引用文献
- 1. Griepentrog GJ, et al. A 40-year study of demographics and incidence of childhood ptosis. Am J Ophthalmol. 2011;152(5):881-885.
- 2. Finsterer J. Ptosis: causes, presentation, and management. Aesthetic Plast Surg. 2003;27(3):193-204.
(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12925861/) - 3. ang HK, et al. Increased Risk of Refractive Errors and Amblyopia among Children with Ptosis: A Nationwide Population-Based Study. J Clin Med. 2022;11(9):2334.
(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35566461/) - 4. Takahashi Y, et al. Frontalis suspension with an expanded polytetrafluoroethylene sheet for congenital ptosis repair. J Plast Reconstr Aesthet Surg. 2016;69(4):e73-e78.
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(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27631781/)

院長 勝村宇博
- 記事監修
- 院長 勝村宇博
- 当院は、私の専門分野であるまぶた(目もと)の手術や涙(ドライアイ、涙道閉塞)の治療を専門とした眼瞼下垂(がんけんかすい)や目もとの審美手術を中心に診療を行っています。 様々な学会に所属し、機能面と審美面両面とも妥協せずに治療を行っております。 また、レーザー治療など新しい治療も取り入れております。
