私がまぶたや涙という…
眼瞼下垂の術後生活③【仕事復帰編】――“無理せず刻む”。これがいちばん早い近道です
- 公開日:2025年11月11日
- 更新日:2025年11月11日
- まぶた(瞼)
まぶたと涙の治療を専門とした「かつむらアイプラストクリニック」。
まぶたの手術は、年間1800件前後のまぶたの手術と向き合っていますが、そのうち半分以上にあたる1100件前後が、眼瞼下垂です。
初診の患者さんと話していると「先生、いつから仕事に戻れますか?」と聞かれる頻度は非常に高いです。
まず結論を先に言うと、
- デスクワークは術後2〜3日から“短時間だけ”再開、1週間ほどで通常ペース。
- 体を使う仕事はまず1〜2週間は軽作業、重量物は2〜3週間は控える。
私は“がんばる”より“機嫌よく治す”ルートを勧めています。戻る順番と戻り方を整えるだけで、仕上がりは静かに、しかし確実に良くなります。

デスクワークは「細切れ」で戻すと、夕方がラクになります
座っているだけでも、画面を凝視するとまばたきが浅くなり、涙の膜が不安定になります。これが夕方の「しみる・かすむ・重だるい」の正体です。
ドライアイの国際報告でも、瞬目の質と涙膜の安定が症状に直結すると整理されています¹²。
最初の数日は、1〜2時間だけ作業→5〜10分休憩。できれば20−20−20(20分ごとに20秒、6m以上先を見る)を“機械的に”入れてください。
視線の切り替えと意識的な瞬目が、涙の持ちを助けます¹²。
もうひとつ、地味だけど効くのがまばたき体操です。
①ゆっくり閉じて1秒、②そっと力を足して1秒(“ギュッ”ではなく“そっと”)、③ゆっくり開く――10回で1セット。
臨床研究では、不完全瞬目が減り、症状と涙の安定性が改善したデータが出ています³⁴。会議の前後やメールの区切りに“1セットだけ”。
この「小さな積み重ね」が、夕方のしんどさを確実に変えます。
環境の見直しも同時に。画面は目線より少し下、エアコンの風は直撃させない。防腐剤フリーの人工涙液をデスクに置き、1〜2時間おきに1滴で十分です。派手なガジェットは要りません。効くのはこうした習慣です¹。
現場復帰は「汗・埃・重さ」の順で注意
立ち仕事や屋外作業は、まず1週間は軽めに入りましょう。汗は清潔なタオルで“置き拭き”、こすらない。粉じん・油煙・強風の日は、保護メガネ+作業短縮で刺激を減らしてください。
そして重量物。ここは焦らないでください。重い物を持つと、人は無意識に息を止め、腹圧と血圧が跳ね上がります。術後の脆い毛細血管には不利で、腫れや内出血の再燃につながり得ます。レジスタンス運動中の急性の血圧上昇は実測されています⁵⁶。2〜3週間は回避、再開は軽い重さ×呼吸を止めないから。夕方に「じんじん」「むくむ」日は、きっぱり早上がりでOK。10分だけのクーリングでも翌朝の顔が違います。
コンタクトとアイメイク、同時スタートは勧めません
順番はコンタクトを先に(2→4→6時間と慣らす)、アイメイクは3週目以降が原則です。理由は三つ。
まず①、粘膜側(いわゆるインサイドライン)のアイラインや微細な粉は涙の層へ移動しやすく、レンズに付着してかすみ・異物感の原因になります⁷。
②、コンタクト装用だけで涙はレンズ前後の二層に分かれて不安定になりがちです。そこへ化粧の油分や粉が加わると、乾き・充血が増幅します⁸。
③、化粧具は汚染されやすい。使い続けたマスカラやアイシャドウから細菌・真菌が検出される報告は少なくありません⁹¹⁰。――つまり、リスクを同時に重ねない。この一点だけでトラブル率は下げられます。
通勤と装い、小さな配慮で差が出ます
満員電車は肘やバッグで目元をガード。マスクのノーズワイヤーは軽く、目の直下に食い込ませない。帰宅したらぬるま湯+泡の“置き洗い”で汗と汚れをオフ、タオルも置き拭き。復帰初日はメイク薄め+人工涙液携行で様子を見る。どれも「地味な一手」ですが、翌朝の“楽さ”に直結します。
迷ったら「中止→相談」
赤み・腫れ・痛みが時間とともに強まる/にじむ出血や黄色い分泌/視界のかすみ・まぶしさが続く/コンタクトで異物感や充血が引かない。ひとつでも当てはまれば、その日は中止。
可能なら写真を添えてご連絡ください。仕上がりを守る“勇気ある撤退”です。
最後に
当院は機能と見た目の両方を同時に見ます。手術はゴールではなくスタート。だからこそ、無理せず刻む戻り方をお勧めしています。小さな選択の積み重ねが、数週間後の「鏡の前の満足」に変わります。私(院長)が、経過も粘り強く並走します。
参考文献
- 1. TFOS DEWS II Report. The Ocular Surface. 2017(涙膜安定と症状の関連、管理指針の要約)
- 2. Sheppard AL, Wolffsohn JS. Digital screen use and dry eye. Ocul Surf. 2023(画面作業と瞬目低下)
- 3. Kim AD, et al. Blinking exercises in dry eye. Cont Lens Anterior Eye. 2020(瞬目訓練で症状改善)
- 4. Arita R, et al. Effects of blinking exercises on dry eye parameters. Ocul Surf. 2024–2025(涙安定性の改善)
- 5. Silva V, et al. Blood pressure increase during resistance exercise. Front Physiol. 2020(抵抗運動時の急性血圧上昇)
- 6. Stupka N, et al. Acute BP response after clean-and-jerk. Eur J Appl Physiol. 2018(挙上直後の一過性上昇)
- 7. Ng A, et al. Migration of eye cosmetics into the tear film. Cont Lens Anterior Eye. 2015(粘膜側ラインの粒子移行)
- 8. TFOS International Workshop on Contact Lens Discomfort. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2013(CL装用で涙が前後に分割・不安定化)
- 9. Abdelaziz AA, et al. Microbial contamination of eye cosmetics. J Clin Pharm Ther. 1989(アイコスメの汚染)
- 10. Dadashi L, et al. Bacterial/fungal contamination in in-use cosmetics. Iran J Public Health. 2016(使用中コスメの汚染)
※本文の時期は安全側の一般目安です。職種・術式・経過で前後します。気になる日は、止める・相談する――それで十分に早く、きれいに治ります。

院長 勝村宇博
- 記事監修
- 院長 勝村宇博
- 当院は、私の専門分野であるまぶた(目もと)の手術や涙(ドライアイ、涙道閉塞)の治療を専門とした眼瞼下垂(がんけんかすい)や目もとの審美手術を中心に診療を行っています。 様々な学会に所属し、機能面と審美面両面とも妥協せずに治療を行っております。 また、レーザー治療など新しい治療も取り入れております。
