私がまぶたや涙という…
眼瞼下垂の術後生活④【入浴、運動編】—術後の生活を再開するための正しいステップ—
- 公開日:2025年11月26日
- 更新日:2025年11月26日
- まぶた(瞼)

まぶたの手術と涙の治療を専門とした「かつむらアイプラストクリニック」。
まぶたの手術後、「お風呂はいつから入れますか?」「運動はどれくらい控えたほうがいいですか?」という質問を毎日のようにいただきます。術後の経過は見た目の仕上がりに大きく影響しますから、不安になるのも当然です。
特に入浴や運動は“気持ちよさ”と“血流上昇”がセットになっているため、術後早期は慎重に扱う必要があります。なぜなら、血流・体温・血圧が上がりすぎると、小さな血管が再び開いてしまい、腫れや内出血が長引く原因になることがあるからです¹²。
今回は、眼瞼下垂(まぶた)の手術後の、より良い入浴方法や運動方法についてお話します。
入浴は「術後3日目からOK」—ただし、傷を“ふやかさない”入り方が絶対条件

まず入浴についてお話しします。当院では、湯船に入ること自体は術後3日目から可能とお伝えしています。ただし、ここで誤解が生まれやすいのですが、入り方にはポイントがあります。
まぶたの創は、術後しばらくの間、まだ本来のバリア機能を完全には取り戻していません。そのため、熱いお湯に長くつかる、肩まで深く浸かる、湯船の中で顔をこする…といった行為は、傷がふやけて血流が増え、再出血や腫れ戻りを引き起こす原因になることが報告されています¹³。
入浴のルールはとてもシンプルです。
「入浴は可能だが、傷をふやかす入り方は術後2週間控える」
これだけ守っていただければ、多くのトラブルを避けることができます。
では「ふやかさない入り方」の具体例ですが。目安としては、ぬるめのお湯で5〜10分程度、創が浸からないように工夫しつつ、軽く温まる程度に留めることです。熱いお湯の長風呂、温泉、サウナ、湯船の中で目元を触る行為はまだ早い段階です。また、スーパー銭湯やプールは、感染予防の観点から術後3週間以降をおすすめしています¹³。
傷の治りを良くするうえでは、「ふやかさない入り方」をした上で薄い眼軟膏やワセリンを一日2回傷に塗ることで「傷口をしっとり保つ」ほうが良いことが多くの研究から分かっています⁴⁵⁶。洗浄後に優しく水分を押さえ取り、こすらず保湿しておけば、必要以上に乾燥させる必要はありません。
冷やすのは48〜72時間。温めるのは3〜4日目以降が目安

術後のむくみ対策として欠かせないのが、冷罨法(冷やすこと)と温罨法(温めること)です。実はこれも「いつから切り替えていいのか」がよく迷われるポイントです。
まず、術後48〜72時間は冷罨法が中心です¹⁷。冷却することで腫れ・痛みを抑えることが可能になります。
その後、新しい出血がないこと、ズキズキする拍動痛がないことを確認できれば、術後3〜4日目あたりから、軽い温罨法に移行してください¹⁷。あくまで“ぬるい”程度が原則で、熱すぎる温度は逆効果です。温める目的は、内出血(青あざ)の吸収を助け、血行を正常化させることにあります。ただし、温めたあとに腫れが増した場合は、すぐ中止して冷却に戻してください。
運動は「血圧をどれくらい上げるか」で再開時期が決まる
運動は、患者さんが最も判断しにくい項目かもしれません。ポイントは、「どれだけ心拍数と血圧を上げる行為か」という点です。軽い歩行なら心拍数は穏やかですが、ジョギングや筋トレは急に血圧を押し上げます。特に、重いウエイトを扱う筋トレでは、一時的に血圧が300mmHgくらいまで上がるという報告すらあります⁷。これは術後早期の傷にとっては大きな負担です。
そのため、運動の再開は段階的に進めることが重要です。
術後数日は、まず家の中をゆっくり歩く程度で十分です。
術後1週間ほど経って腫れが落ち着きはじめたら、会話できる程度のウォーキングや軽負荷のエアロバイクから戻していきます。息が上がる運動、前のめりになるポーズ(ヨガの一部など)も、この時期はまだ控えるのが安心です。
術後2週間を過ぎると、早歩きや緩い坂道といった中等度の有酸素運動が可能になるケースが多くなります。
筋トレは、術後3週間以降に、「15回できるくらいの軽〜中等度負荷」から再開し、息を止めて踏ん張るようなフォームは避けます。
そして、高重量のトレーニングや瞬発的な負荷は術後4週間以降で、腫れの経過を見ながらの復帰にしていただいた方が安全です。

サウナは3週間待つのが“美しい仕上がり”のための近道
「サウナー」という言葉が示すほどサウナ愛好家の方は多く、「サウナはいつから入っていいんでしょうか?」という質問もよく受けます。
しかし、サウナは想像以上に血流の変化をもたらします。心拍数は100〜150/分まで上昇し、末梢血管が開き、体温が急速に上がります⁸。健康な時には気持ち良いものですが、術後早期は腫れを一気に増やす行為になってしまいます。
そのため当院では、サウナ・岩盤浴・水風呂・交代浴は術後3週間まで控えるようお願いしています。3週間を過ぎ、腫れが落ち着いてきたら、徐々に段階を踏みながら再開してください。
まとめ:焦らないことが、最終的にいちばんきれいに治る近道
術後の生活で最も大切なのは、「無理をしないこと」に尽きます。人間の身体は、急に始めるより一段ずつ丁寧に積み上げたほうが、結果としてずっときれいに治るようにできています。
- 入浴は術後3日目から可。ただし2週間は“ふやかす入り方”はNG
- 運動は軽い歩行→軽めの有酸素→中等度有酸素→軽い筋トレ→高重量の順に
- サウナは3週間待って、短時間・低温から
- 冷やすのは48〜72時間、それ以降は温める。
このステップを守るだけで、腫れや内出血の経過は大きく違ってきます。
術後に不明点が出てきましたら、執刀医である私に遠慮なく聞いて下さい。
落ち着くまで責任をもって診療いたします。

引用文献一覧
- ¹ Michigan Medicine. Blepharoplasty (Eyelid Surgery) Post-Operative Instructions.(冷罨法・シャワー・活動性の推奨)
https://www.med.umich.edu/1libr/Surgery/PlasticSurgery/Cosmetic/Blepharoplasty-postop.pdf?utm - ² Guy’s and St Thomas’ NHS Foundation Trust. Blepharoplasty – During and after your surgery.(入浴・運動の目安)
https://www.guysandstthomas.nhs.uk/health-information/blepharoplasty/during-and-after-your-surgery?utm - ³ University Hospital Southampton NHS FT. After your eyelid surgery – patient information.(入浴・プールの再開目安)
https://www.uhs.nhs.uk/Media/UHS-website-2019/Patientinformation/Eyes/After-your-eyelid-surgery-2090-PIL.pdf?utm - ⁴ Smack DP, et al. White petrolatum vs bacitracin ointment for postoperative wounds. JAMA. 1996.(ワセリンと抗菌軟膏の比較)
https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/408314?utm - ⁵ American Academy of Family Physicians. Don’t routinely use topical antibiotics on a surgical wound.(清潔手術創の外用薬に関する推奨)
https://www.aafp.org/pubs/afp/collections/choosing-wisely/150.html?utm - ⁶ 各種皮膚科文献による petrolatum 系の創傷治癒効果(湿潤療法の基礎)
https://jddonline.com/articles/postoperative-wound-care-after-dermatologic-procedures-a-comparison-of-2-commonly-used-petrolatum-ba-S1545961613P0163X/?_page=2&utm - ⁷ MacDougall JD, et al. Arterial blood pressure response to heavy resistance exercise. J Appl Physiol. 1985.(高重量負荷での急激な血圧上昇)
https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/408314?utm - ⁸ Laukkanen JA, et al. Sauna bathing and cardiovascular function. Mayo Clin Proc.(サウナでの循環動態の変化)
https://research-information.bris.ac.uk/ws/files/154526230/Clean_version_Sauna_review_MCP_Final.pdf?utm

院長 勝村宇博
- 記事監修
- 院長 勝村宇博
- 当院は、私の専門分野であるまぶた(目もと)の手術や涙(ドライアイ、涙道閉塞)の治療を専門とした眼瞼下垂(がんけんかすい)や目もとの審美手術を中心に診療を行っています。 様々な学会に所属し、機能面と審美面両面とも妥協せずに治療を行っております。 また、レーザー治療など新しい治療も取り入れております。
