今回は、眼瞼下垂の手…
逆さまつげを眼科で抜くのは良くない?逆さまつげの直し方(治し方)
はじめに
私は2013年からまぶたや涙道の手術を専門に行っており、現在では年間約1800件前後のまぶた手術と向き合っています。
開院前は埼玉県内の眼科クリニック数施設で週4日以上手術を担当し、年間500~600件のペースで手術を行ってきました。
その中で私が特に驚いたのは、「若年層の逆さまつげ(睫毛内反症)が適切に治療されず、放置されているケースが非常に多い」という事実です。
眼科に相談しても数本のまつ毛を抜かれて「しばらく様子を見ましょう」と言われるだけ…。そのような処置が根本的な解決になっていない現状を数多く目の当たりにしました。
そこで今回は、逆さまつげの種類ごとの特徴と、それぞれに適した治療法について、専門の医師の立場から解説したいと思います。
逆さまつげとは?
「逆さまつげ」は一括りにされがちですが、原因や症状の出方によって、実は以下の3種類に分けられます。
① 睫毛内反症・内眼角贅皮
→主に子どもや若年層に見られるタイプ
皮膚の厚みや目頭の蒙古ひだが発達していることで、まつ毛が眼球側を向いてしまう状態です。
日本人小児では1〜7%の割合で見られるともいわれています¹。
② 眼瞼内反症
→高齢者に多いタイプ
下まぶたの筋肉や靱帯が加齢によって緩み、まばたき時にまぶたごと内側に反り返ってしまう病態です。まぶた全体が眼球側に倒れ込むため、まつ毛が全体的に黒目に接触しやすくなります。
③ 睫毛乱生症
→まつ毛の一部だけが眼球に当たるタイプ
炎症や涙の流れの乱れなどが原因で、一部の毛根だけ異常方向に生える状態。まつ毛自体は通常前を向いているが、数本だけ眼球側に伸びて角膜を刺激します。
逆さまつげの治療法とは?
逆さまつげは種類ごとに治療法が異なり、見た目では判断が難しいこともあります。
眼科専門医による診断の上で、最適なアプローチを選択することが大切です。
① 睫毛内反症・内眼角贅皮(若年者)
経過観察
10歳以下の場合は、成長とともにまぶたの形が自然と整うケースも多いため、軽症例ではまず経過観察を行います。
手術が必要なケース
- 点状表層角膜炎(角膜の傷)が強く、視力に影響が出ている場合
- 10歳以上でも症状が改善しない場合
推奨される手術法
- Hotz変法(下まぶたの皮膚切開)
- 内眥形成術(目頭切開)(蒙古ひだが強い場合)
これらの術式を組み合わせることで、まぶたの形態を根本的に整えることができます。
「切らない手術(埋没法)」が選ばれることもありますが、再発率は66.7%に達するとの報告もあり、慎重な判断が求められます1(当院では、全く行っておりません)。
② 眼瞼内反症(高齢者)
原因は、まぶたの支持構造(筋肉・靱帯)の緩みです。
基本術式:Jones変法
- 弛緩した眼輪筋を調整する術式
- 単独で約90%の治癒率を持つと言われています2
再発例への追加術式:LTS法(外側眼瞼靱帯再建)
- 外眥靱帯が緩んでいる場合に有効
- Jones法とLTS法を併用した場合の再発率は5年で5%未満と安定性が高く3、重度例や再発例には非常に有効です。
③ 睫毛乱生症(一部のまつ毛)
このタイプは、まつ毛の数本だけが異常方向に生えているため、問題のまつ毛だけを対象とした治療を行います。
主な治療法
-
a.睫毛抜去(ピンセットで抜く)
簡便ですが、まつ毛は約45日周期で再生するため、すぐに生えてきて再発します4。
-
b.睫毛電気分解(毛根の焼灼)
電極針で毛根を焼く方法。再発率は約50%で、根が深い毛根には効果が限定的なこともあります。
-
c.ブロック切除(皮膚ごと部分切除)
まつ毛の根元から皮膚を含めて切除する方法。再発がほとんどなく、傷あともほとんど目立たないため、根治性が高い治療法として選ばれることがあります。
逆さまつげを眼科で抜くのは良い?
一番多く聞かれるご質問です。
結論から言えば──睫毛乱生症に限っては、まつ毛を抜くという処置も一時的には有効です。
ただし、
- すぐに再発する(1〜2か月以内)
- まつ毛を切ると、短く太くなり余計に痛みを感じる
- まつ毛全体が眼球に当たっている場合は意味がない
といった理由から、抜くだけでは根本的な治療にならないケースがほとんどです。
とくに睫毛内反症や眼瞼内反症の場合は、「まぶたの形状や構造」に問題があるため、まつ毛だけをいくら抜いても治りません。むしろ放置してしまうと、慢性的な角膜障害に発展し、将来的な視力低下や角膜混濁につながる可能性もあります5。
よくあるご質問(FAQ)
- 子どもの逆さまつげは、必ず手術が必要ですか?
- 軽度の場合は成長とともに改善することもあるため、10歳以下では経過観察を基本とします。角膜障害や視力低下がある場合には、早期手術を検討します。
- 逆さまつげの治療は保険適用ですか?
- 保険適用の対象になります。それは、逆さまつげという病気が、角膜障害や眼痛、異物感など、機能的に障害があるからです。(逆に言うと、保険が適用できない逆さまつげは、機能的な障害がないということになり、そもそも逆さまつげではありません)。
おわりに
いかがでしたでしょうか?
「逆さまつげ」と一言で言っても、その原因と治療法は多岐にわたります。
まつ毛を抜くことが“その場しのぎ”になるケースもありますが、まぶたの構造に問題がある場合は、抜くだけでは根治できません。
特にお子さまや高齢の方では、逆さまつげが進行することで視力に影響を及ぼす可能性もあります。
自分やご家族が「目が痛い」「ゴロゴロする」「涙が出やすい」などの症状で悩んでいる場合には、早めに専門医の診察を受けることをおすすめします。
当院では、「眼科的な機能面と形成的な審美面」両方の視点からまぶたの診療を行っており、年間約1800件の手術実績があります。
気になる症状があれば、ぜひ一度ご相談ください。
引用文献一覧
- 1.Sundar G, et al. Epiblepharon in East Asian Patients: The Singapore Experience. AAO 2010.
- 2 .Kakizaki H, et al. Surgical outcome of Jones procedure. Br J Ophthalmol. 2007.
- 3.Garg A, et al. Long-term outcomes of combined LTS and Jones procedure in involutional entropion. Orbit. 2019.
- 4.Karp CL, et al. Treatment of trichiasis and distichiasis. In: Techniques in Ophthalmic Plastic Surgery. 2016.
- 5. Jung JH, et al. Trichiasis and corneal complications in children. Cornea. 2018.
院長 勝村宇博
- 記事監修
- 院長 勝村宇博
- 当院は、私の専門分野であるまぶた(目もと)の手術や涙(ドライアイ、涙道閉塞)の治療を専門とした眼瞼下垂(がんけんかすい)や目もとの審美手術を中心に診療を行っています。 様々な学会に所属し、機能面と審美面両面とも妥協せずに治療を行っております。 また、レーザー治療など新しい治療も取り入れております。