眼瞼下垂と、よく間違われる疾患
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眼瞼皮膚弛緩症
(がんけんひふしかんしょう)まぶたを上げる筋肉の働きは十分であるものの、皮膚がたるむことで「まぶた」が下がる病気を眼瞼皮膚弛緩症といいます。
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眼瞼痙攣
(がんけんけいれん)まぶたを閉じる筋肉である「眼輪筋」が自分の意思とは無関係に収縮し、勝手にまぶたが閉じる病気です。
まぶたが下がるため、眼瞼下垂と間違って診断されることもあります。
眼瞼下垂
最終更新日:2024/02/22
このページは、眼瞼下垂に関する情報を提供しています。眼瞼下垂とは、まぶたを上げる筋肉が徐々に緩んでまぶたが下がる状態を指し、視野が狭くなるなどの問題を引き起こします。初期段階では二重の幅が広がり、進行するとまぶたが黒目にかかり、最終的には黒目が半分以上隠れるようになります。加齢、コンタクトレンズの使用、生活習慣病、一重まぶたが主な原因です。眼瞼下垂には先天性と後天性の2種類があり、治療方法は症状の程度に応じて異なります。まぶたの役割、受診のタイミング、眼瞼下垂の種類、原因、検査・診断方法、予防法、治療について詳しく説明しています。
眼瞼下垂とは、まぶたを上げる筋肉である挙筋腱膜やミュラー筋が、ゴム紐のように徐々に緩みまぶたが下がった状態をいいます。
使うほど弛んでいくのはマスクのゴムひもに似ています。眼瞼下垂がない場合、まぶたがしっかりと開いて茶目が完全に露出しますので広い視野を得ることができます。
眼瞼下垂の初期では、まぶたが下がり、二重幅が広がります。中期では、まぶたが黒目にかかるようになり、二重幅がさらに広がります。
そして、下がった瞼をしっかりと上げるためにおでこに力を入れるので、おでこにはシワが寄ります。また、おでこの筋肉に引っ張られて眉毛があがります。
後期になると、黒目はまぶたで半分以上隠れるようになります。
黒目の中心から上まぶたの距離の目安ですが、正常の場合は約4ミリメートル、初期の場合は2~4ミリメートル、中期の場合は2ミリメートル以下になります。
まぶたを上げる筋肉の働きは十分であるものの、皮膚がたるむことで「まぶた」が下がる病気を眼瞼皮膚弛緩症といいます。
まぶたを閉じる筋肉である「眼輪筋」が自分の意思とは無関係に収縮し、勝手にまぶたが閉じる病気です。
まぶたが下がるため、眼瞼下垂と間違って診断されることもあります。
細い針金やアイプチなどでまぶたの皮膚を上にあげても「まぶた」の縦幅が不十分な場合は眼瞼下垂、まぶたの縦幅が大きい場合は眼瞼皮膚弛緩症です。黒目の中心からまぶたの縁まで2~4cmであれば軽度眼瞼下垂、2cm未満であれば重度眼瞼下垂です。
生まれつき筋肉が弱くまぶたが下がっている場合を「先天性眼瞼下垂」といいます。
8%の子供が何らかの先天性眼瞼下垂を持っていると報告している論文もあります。1)
それ以外では、加齢によりまぶたを上げる筋肉の働きが弱まるのが原因であることが多く、40歳以上で眼瞼下垂の割合は13.5%。年齢別では以下のようになります。
年代 | 割合 |
---|---|
40歳代 | 5.40% |
50歳代 | 11.60% |
60歳代 | 19.80% |
70歳以上 | 32.80% |
つまり、70歳以上の3分の1が眼瞼下垂ということになります。また、年齢を1歳重ねるごとに眼瞼下垂になる危険性は5%増えるというデータもあります。2)
眼瞼下垂はまぶたが下がることで以下のような症状が出ます。
まぶたは、目にゴミが入るなど、「異物や乾燥など外的刺激から目を守る」役割を担っています。また、まぶたというと、皆さんも日常的に行う「まばたき」をする役割を担います。目をずっと開いていると、刺激(痛み)として感じたり物がクリア(はっきりと)に見えなかったりしますよね?
まばたきは、眼球の乾き(涙の蒸発)抑え、新しい涙が分泌され目の表面をコーティングすることで目を保護し、健康に保つ役割を果たしてくれます。
まぶたは「まぶたを開ける動き(開瞼(かいけん))」「まぶたを閉じる動き(閉瞼(へいけん))」動きをしており、この二つを組み合わせて毎日約2万回もまばたきをしています。
開瞼時は瞼板(けんばん)という板に付着した挙筋腱膜(きょきんけんまく)とミュラー筋という2つの筋肉を使ってまぶたを開けており、閉瞼時は眼輪筋(がんりんきん)というバウムクーヘン状の筋肉を使って、まぶたを閉じる動きをとっています。
そして、まぶたはまばたきをすることで異物から眼球を守るだけでなく「眼球を涙でコーティングする」という重要な役割を担い、眼球を健康に保ってくれています。
つまり、眼球はカメラと同じ構造をしていますが、角膜(カメラのレンズの役割)が涙でうまくコーティングされることでレンズ面をキレイに保ち、クリアな視界を維持することに繋がっています。
眼瞼下垂はまぶたが下がり、上方の視野が狭くなる病気です。機能的に問題となるのは黒目(瞳孔)まで「まぶた」が下がった場合で「まぶたが開けづらい」という自覚症状も出やすくなりますので、機能面を改善させるために手術を受けることをお勧めいたします。
しかし、筋肉が不十分な場合でも、おでこの力を使いまぶたを上げている「隠れ眼瞼下垂」も多く、おでこの筋肉を抑えるとまぶたが下がる場合は専門の医師への受診をお勧めいたします。若い方でも一重の方は「隠れ眼瞼下垂」が多いです。ご自身で判断が付きづらいことも多いので、気になる方は当院をはじめとした眼科専門医や眼瞼下垂を始めとした「まぶた」を専門的に扱う医療機関へご相談するとをお勧めいたします。
また、急に下がるというよりは徐々に下がることが多いために本人が気づいていないことも非常に多く、周りの方に「まぶたが下がっている」「眠そうに見える」など指摘された場合も一度受診した方が良いと考えます。
まぶたを上げる筋肉が先天的に弱く、まぶたが下がっている場合を先天性眼瞼下垂(せんてんせいがんけんかすい)といいます。
先天性眼瞼下垂の方は、筋肉が非常に薄いことが特徴です。
また、軽度の先天性眼瞼下垂の方も多く、子どもの8%が先天性眼瞼下垂であるというデータもあります。1)
先天性眼瞼下垂が生まれつきだったのに比べて、環境や病気が原因の眼瞼下垂を後天性眼瞼下垂(こうてんせいがんけんかすい)といい、いくつかに分けることができます。
まぶたを上げるのは「挙筋腱膜(きょきんけんまく)」と「ミュラー筋」という2つの筋肉ですが、これらの筋肉がうまく働かなくなるためにまぶたが下がった状態(眼瞼下垂)です。
まぶたをあげる「挙筋腱膜」と「ミュラー筋」は正常であるものの、まぶたの皮膚がたるみ、目の上からかぶさってくることで上方の視界が狭くなっている状態です。
正確には「眼瞼皮膚弛緩症」とよばれ、まぶた自体が下がっている眼瞼下垂とは全く違いますが、実際には「腱膜性眼瞼下垂(けんまくせいがんけんかすい)」と「眼瞼皮膚弛緩症」が混在していることが非常に多いです。
脳腫瘍や脳動脈瘤などの脳疾患、顔面神経麻痺などの神経疾患、重症筋無力症(じゅうしょうきんむりょくしょう)などの全身疾患でも眼瞼下垂をきたすことがあります。
つまり、「加齢による眼瞼下垂と思っていたら実は病気が隠れていた。」ということもあり、注意が必要です。私自身も、一年に1人くらいは他科の治療が必要な方に遭遇します。
まぶたの病気に関しては脳神経外科や形成外科が治療することもありますが、まずは眼科に行くべきであると考えています。それは、まぶたと眼球は密接しているため、まぶたをしっかりと治療するには、眼球も正しく診察する必要があるためです。
まぶたの病気かと思っていたら実は眼球の病気であることもありますし、眼球の病気かと思っていたら実はまぶたの病気だったということもあります。
隠れた眼球の不具合を見逃さないためにも、まずは眼科の診察を受け、眼球に問題がない場合にまぶたの治療を考えるべきです。
眼瞼下垂の種類により原因は様々ですが、最も多いのは「加齢」によりまぶたを上げる筋肉がうまく働かなくなることです。
しかし、それだけではなく、先天的に筋肉がうまく働かない「先天性眼瞼下垂(せんてんせいがんけんかすい)」や脳腫瘍(のうしゅよう)や脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)などの脳疾患、顔面神経麻痺などの神経疾患、重症筋無力症(じゅうしょうきんむりょくしょう)などの全身疾患でも眼瞼下垂をきたすことがあります。
まぶたを上げる筋肉がうまく働かなくなりまぶた自体が下がっている「眼瞼下垂」と皮膚のたるみである「眼瞼皮膚弛緩症」は、細い針金やアイプチで余った皮膚を持ち上げると区別がつきますので、ご自宅でもある程度は検査可能です。
そして、眼瞼下垂の程度は、黒目の中心から上まぶたまでの距離を測定することで判断します。
しかし、眼球の状態を診察するには眼科の診察にある細隙灯顕微鏡が必須になります。また、全身疾患の有無を確認するには採血検査や画像検査が必要になる場合があります。
眼瞼下垂の原因の一つになっているのが「まぶたをこする」という動作です。
つまり、アイメイクやコンタクトレンズ装用(装着して使用すること)を気をつけることである程度の予防が可能です。
インターネットなど、WEB上で色々検索してみると、以下のような様々な情報が出てきます。
しかし、これらの中で医学的に正しいと証明されているものは一つもありませんので、過度な効果の期待には注意してください。私はまぶたの手術を年間500件弱行っておりますが、マッサージやトレーニングで眼瞼下垂が改善した患者様を一人も存じ上げません。
改善しないだけでなく、マッサージをしたり皮膚を引っ張ったりするのは伸びきったゴム紐をさらに引っ張るのと同じことですから、逆に皮膚のたるみを悪化させていることになります。
脳疾患や神経疾患、内科疾患など他科に原因がある場合は原因の治療が優先されますし、もちろん保険が適用されます。
他科の疾患がない眼瞼下垂や眼瞼皮膚弛緩症は伸びたゴム紐と同じ状態で、ハリを戻すにはゴム紐を切って短くし縫い合わせる(手術)必要があります。
費用に関してですが、「機能的に支障が出ている(上方の視野が狭い、まぶたが開けづらい、まぶたが重い)」場合は保険が適用されます。一方、「機能的には支障がないものの見た目に気になる」場合は自費での治療になります。
術式 |
挙筋前転術 (少量の脂肪切除も行っています) |
手術時間 | 約80分 |
金額 | 約50,000円(保険適用、3割負担時) |
リスク・副作用 | 再発、術後出血、再手術 |
術式 |
眼瞼下垂手術(挙筋短縮術) +真皮脂肪移植 |
手術時間 | 約3時間 |
金額 | 550.000円(税込) |
リスクや副作用 | 再発、兎眼、出血、再手術 |
術式 | 挙筋前転術 |
手術時間 | 約70分 |
金額 | 約50,000円(保険適用 3割負担時) |
リスクや副作用 |
再発、術後出血、再手術 |
術式 | 挙筋前転(他院修正) |
手術時間 | 約70分 |
金額 |
約50,000円 (保険適用、3割負担時) |
リスク・副作用 | 再手術・術後腫脹・変形 |
術式 | 挙筋短縮術(他院修正) |
手術時間 | 約65分 |
金額 |
約50,000円 (保険適用、3割負担時) |
リスク・副作用 | 再手術・術後腫脹・変形 |
術式 | 挙筋短縮術 |
手術時間 | 約60分 |
金額 |
約50,000円 (保険適用、3割負担時) |
リスク・副作用 |
再手術・術後腫脹・変形 |
術式 | 挙筋短縮術 |
手術時間 | 約60分 |
金額 |
約50,000円 (保険適用、 3割負担時) |
リスク・ 副作用 |
再手術・ 術後腫脹・変形 |
01) Prevalence and risk factors of childhood blepharoptosis in Koreans: the Korea National Health and Nutrition Examination Survey. Cho BJ et al..Eye (Lond). 2020 Sep;34(9):1585-159
02) revalence and associated factors of blepharoptosis in Korean adult population: The Korea National Health and Nutrition Examination Survey 2008-2011. Kim MH, et al. SW.Eye (Lond). 2017 Jun;31(6):940-946